3-4『亥(い)の子(こ)祝(いわ)いの起(お)こり』
―愛媛県―
むかし、ある山里(やまざと)に娘とおっ母(か)さんとが暮らしておったと。
山の畑には真ん中に大っきな石がデンと座っていて、じゃまになって困っていたと。
あるとき、娘とおっ母さんがこの畑を耕(たがや)しながら、
「石がないと作物もようけとれるのに」
「そうやなあ」
と話をしていたら、藪(やぶ)の葉蔭(はかげ)で猪(いのしし)がそれを聞きつけ、景色のいい若者に化けた。そして、
「わしがその石、のけてやろか」
と声をかけた。
娘とおっ母さんは、びっくりして声のした方を見ると、藪をかきわけて若者が近づいてきた。
「あんた、どこのひとやぁ」
「わしは、この山向こうに近頃(ちかごろ)住(す)みはじめたもんだ」
「そうやったかねぇ?どこから来たん」
「それより、その石、困ってるんやろ」
「なに、そんなこと言うたって、この大石(おおいし)がのけられるもんかね」
「のけたら娘を嫁にくれるかい」
おっ母さんは、この若者が山向こうに住みはじめたという話も聞いていないし、素性(すじょう)の知れんこんなやさ男に石がのけられるはずもないと、たかをくくって、
「のけたら嫁にやるわ」
と言うたと。
そしたらなんと、ほんとに取(と)り除(の)けてしもうて、けっこうな畑になった。若者は、
「明日(あした)、迎えに来る」
といいおいて、藪をこいで山向こうへ姿を消したと。
次の朝、おっ母さんが、どうしょうこうしょう、とおろおろしているところへ、景色のいい若者が迎えに来た。娘は、
「約束したものじゃけに、しょうがないわ」
というて、藁(わら)を大っきくひとくくりすると、聟(むこ)に背負(しょ)わせて、一緒に山を上(あが)って行ったと。
娘は聟の後(あと)からついて行きながら、昨日(きのう)、石を除けるときの若者の姿を思い出していた。
後足(うしろあし)で二度三度土をかくようなさま。
両手、両足を土にめり込ませながら肩で大石を押し切ったさま。
ついに大石は畑の斜面を山下(やました)に転がり落ちていったのだと。
そしていま、目の前を藁の大束(おおたば)を背負って歩いていくさまも、どこをどうとははっきりしないが、どこか人間離れした足の運びだ。
娘は、この聟は化物に違いないと思うた。
どうにかして殺さないかんと思案しながら山の上へ上へとついて行ったら、茅(かや)がたくさん生えた所へ差しかかった。
ここだ、と思うて、聟が背負っている藁に火を点けたらボウボウと燃えた。聟が、
「アチ、アチッ、アチチィッ」
と叫(おら)んだとたん、化けの皮がはがれて元(もと)の猪の姿にもどったと。
アチーと叫んではあっち走り、アチーと叫んではこっち突っ走りしているうちに、茅にも燃え移って、火に囲(かこ)まれた猪は、とうとう焼け死んだと。
娘とおっ母さんは、また、山の畑を耕した。
ところが、この年いっこうに作物が稔(みの)らん。
拝(おが)み屋に拝んでもろうたら、猪の祟(たた)りじゃという。
娘とおっ母さんは、猪のとむらいをして、供養したと。
そしたら、次の年には、以前にも増して作物がようけい出来たと。
毎年、余った作物を売って、だんだん暮らし振りもよくなった。やがては娘に人間の聟をもらって、子もたくさん産まれ、一生安楽に暮らしたと。
昔にこんなことがあって、「亥(い)の子祝(こいわ)い」の祭りが始まったと。
陰暦(いんれき)十月の亥の日の亥の刻(こく)に亥の子餅(もち)や、亥の子団子(だんご)を食べながら、
インノコ ネコノコ ネズミノコ
ユンベ生まれたウサギのコ
と、おまじないを唱(とな)え、万病(まんびょう)を防(ふせ)ぎ、子孫繁盛(しそんはんじょう)を祝うのだそうな。
むかし こっぷり。
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