2-6『吉四六(きっちょむ)の火事騒動(かじそうどう)』
―大分県―
昔、豊後の国、今の大分県大野郡野津町(おおいたけんおおのぐんのづちょう)大字野津市(のづいち)に吉四六さんという、とても面白い男がおったと。
あるとき、吉四六さんの村で真夜中に火事があったと。
村中寝静まっていて、気がついたのは、便所に起きた吉四六さんだけ。
「こりゃ大事(おおごと)だ、庄屋さんに早いとこ報(し)らせにゃ」
走り出そうとした吉四六さん、日頃庄屋さんに言われている言葉を思い出した。
「こりゃ吉四六、お前はあわて者(もん)でいかん。走り出してから考えるのじゃなく、考えてから動きなさい」
「おっと、いかん、いかん。こういう時こそ落ちつかなくては。先ずは、カマドに火をつけて、それから湯を沸(わ)かして・・・と」
吉四六さん、沸いた湯で顔を洗い、ついでに念いりにヒゲを剃った。
「これだけではいかんな。庄屋さんは村一番の偉(えら)いお人じゃき、粗末な格好では失礼になる」
長持ちから、古びた羽織袴を取り出して着込み、右手に白い扇(おうぎ)を持った。
「だいたい、こんなもんでええじゃろか」
落ちついて、ゆっくりゆっくり庄屋さんの屋敷へ行き、雨戸の外から礼儀正しく声を掛けた。
「ええ、お庄屋さま、ええ、お庄屋さま、ただいま火事でございまする」
と、ぼそぼそと言っていると、その声で目を覚ました庄屋さんが寝ぼけまなこで出て来た。
「なんだ吉四六か、フワァ―、こんな真夜中にそんな格好をして、一体何事だね」
「ええ、ただいま火事でございまする」
「な、なに、いま何というた」
「ええ、ただいま火事でございまする」
いっぺんに目が覚(さ)めた庄屋さん、火事場にすっとんで行った。
その後ろから、吉四六さんもついて行く。
「ありゃ、すっかり燃えてしもうた。
こりゃ吉四六、夜中に火事がある時にゃ、大急ぎで戸をたたいて、大声で叫べ。ええか!!」
「へへぇ―、わかりやした」
さて、次の晩のこと、
吉四六さんは、丸たん棒を持って庄屋さんの屋敷へ行った。
「火事だあ、火事だあ!」
と叫びながら、丸たん棒で雨戸をドカン、ドカン、バリン、バリン。とっても楽しそうだと。
「火事だあ、火事だあ」
庄屋さん、びっくりしてとび起きて来た。
「何だ、何だ、何ごとだ吉四六」
「火事だ、火事だ」
「わかった、わかった。そんなに叩くな、家が壊れる。で火事はどこな」
それを見た吉四六さん、
「庄屋さん、今度火事があったときにゃ、こんくらいのところでよろしいござんすか?」
と、すまして、こう言うたと。
もしもし米ん団子、早う食わな冷ゆるど。
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