2-20『豆の粉』
―岩手県―
昔々、あるところに、爺様(じさま)と婆様(ばさま)があったとさ。
あるとき、爺様が庭の前を掃(は)いていると、豆コが一つ、隅(すみ)から、ころころころと転がり出はった。
その豆を前にして爺様は、
「婆様ナ婆様ナ、豆コ一つ見つけたが、なじょにすべ。庭の隅コさでもまいておくべか」
と婆様に語(かた)った。
「はて、庭の隅コは、食いしんぼうな鶏が来てほじくり申す」
と婆様が心配するので、
「ほんだら小屋コさ入れてしまっておいたらよかべ」
といった。
「小屋コもいいが、大きなネズミが出申(でもう)す」
「はてさて、そんだらば板の間さ置くから桝(ます)コ持って来い」
「爺様ナ、爺様ナ、板の間には目んむの黒い猫がいて、つんまりさんまり、ひっぱり申す」
爺様はいよいよ困って、
「この上はいっそうのこと、豆の粉にしてとって置くべや」
といって、鉄のほうろくに入れて煎(い)りこがした。
煎るが煎るが煎るうちに、小んまい一粒の豆コがかがみ餅(もち)ほどにふくれて、鉄のほうろく一杯(ぱい)になった。
石臼でひくには大きすぎるので、臼に入れて、どんがらやい、どんがらやい、どんがらやいと搗(つ)いた。搗くが搗くが搗くほどに、黄粉(きなこ)が五升桝でも計(はか)りきれないほど出来た。
「婆様ナ、婆様ナ、黄粉が出来たので隣さ行ってフルイを借りて来い」
「俺(おら)、嫌(やん)だ。履(は)いでぐ物ないから、俺、嫌だ」
「ほゆごと言わねで、草履(ぞうり)でも足半(あしなか)でも履いで行け」
「足半履げばピチャン、ピチャンていう。草履ば履けばスタパタって駄目だもの」
「そんだらば足駄(あしだ)でも履いで行けばよかべ」
「足駄を履けば、カラコロ音する」
「そんだらばフルイはいらね。これで間に合わせべや」
と、爺様はふんどしをはずしてフルイにかけたと。
さて、豆の粉にはしたが、またまた置き場所に困ってしまった。
「爺様ナ、爺様ナ、台所さ置けば、いたちコぁ見つけべし。板の間さしまえば、黒い猫が見てるべし。なじょにしたらよがべなし」と、婆様は、桝に入れた豆の粉を持って、うろうろしているので、爺様は、
「えじゃ、えじゃ、おれの寝床の中さ入て置け」
といった。
晩げになって、爺様は大切な大切な豆の粉を抱いて寝申したが、夜中に、大きな屁をばひとつ、ぼんがらやっと、ぶっ放(ぱな)した。その勢いで、豆の粉たちァ、
「はあ、爺様の屁っこは、臭(く)せじゃ。ほんが、ほがほが」
と、みんな吹っとんで、婆様の尻のとこさ行って、ひっついた。
これを見た、食いしんぼうな鶏だの、大きなネズミだの、いたちコだの、目ん玉のまっ黒い猫だのが、ぐぁら、ぐぁらと駈(か)けて来て、
「そりゃ、黄粉たちゃ、塩っ辛くなるでば。ほい、ほい」
と、婆様の屁っぺたについた黄粉ば、ぺちゃくちゃなめてしまったとさ。
これも天保(てんぽ)※のはなしだと。
※天保:てんぽう、または、てんぽ。ほらの意。
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