2-27『雁(がん)の恩返(おんがえ)し』
―岩手県―
昔あったと。津軽の国、今の青森県の津軽半島に十三湖(じゅうさんこ)という大きな湖があって、そのそばに、一人の爺さまが住んでおったと。
ある冬の吹雪の夜、爺さの家の戸をトントンと叩く者があったと。爺さが、
「はいはい、いま開けてやるで」
というて戸を開けてやったら、一人の娘が雪まみれで立っていたと。
「あれまぁ、この寒いのに、早く入(へえ)れ、さあさあ」
というて、娘を家の中に招じ入れ、囲炉裏の火を燃やしてあたためてやったと。
「お前(め)、足を痛めていなさるか」
「はい」
「この吹雪だで、今晩ここさ泊っていけばいい」
「ありがとうございます」
「ほれ、できた。この魚汁はうめえぞう」
爺さが温(ぬく)めた魚汁を椀に盛ってやると、娘はうまそうに食べたと。
腹もふくらんだし、身体(からだ)も温もったし、娘は囲炉裏のそばで、安心しきって眠ったと。
真夜中になって、爺さが、風邪でも引かせちゃなんねえ、と思ってそおっと起きて見たら、なんと、娘は鳥(とり)の雁(がん)であったと。
「そうであったか、湖が凍って、何かのはずみで足に怪我をしたのじゃろ、治したい一心で娘に変化して来たか。あわれじゃのう。大事にしてやるべ」
爺は娘の足に薬をつけてやったと。
吹雪は、その夜から五日も六日も吹き荒れたと。爺さは娘に、
「ええ、ええ、怪我が治るまでいつまででもおるがええ」
というたと。
それからまた、雪が降ったり止んだり、お日様が照ったり曇ったりをくり返して、ようやく春めいて来たと。
そんなある日、娘が、
「お爺さん、ながながお世話になりました。おかげで足もすっかりよくなりました。もう旅をしても大丈夫ですから、おいとましようと思います」
というた。
「そうか、行くか」
と、爺さがさみしそうな顔をすると、娘もかなしそうな顔で、
「実は、私は、雁です」
というた。
「知っとった」
「そうでしたか・・・。このご恩は忘れません」
こういうと娘は思い切るように鳥の羽バタキのように両手を動かした。するとたちまち雁になって舞い上がったと。
そして、爺さの家の上を三遍まわって、それから空高く北の方へ飛んで行ったと。
日が経(た)って、春が過ぎ、夏が来て、秋になったと。
十三湖に、また、雁がいっぱい飛んで来るようになったと。
爺さは毎日空を眺めて、娘の雁を思い出しておったと。
ある日、一羽の雁が、列から離れて爺さの頭の真上に飛んで来たと。
そして、包みのようなものを落としたと。
爺さが拾ってその包みを開けたら、砂金の粒がぎっしりつまっていたと。
娘の雁の恩返しであったと。
とっちぱれ。
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