2-44『蜘蛛女(くもおんな)』
―岩手県―
昔あるどごろに、小間物(こまもの)の行商(あきない)している男がいであったど。
ある在郷(ざいごう)を行商して歩(あり)いている内(うち)に、道に迷ってしまったど。行けば行ぐほど山深くなって、すっかりまいってしまったど。
そしたら、ちょうどいい按配(あんばい)に、谷底(たにそこ)に古寺(ふるでら)が見つかったんだど。小間売りは喜んでその古寺に行って見たど。
人っコが誰もいねえ、空寺(からでら)だっだど。
そんで、中に入(へえ)って、囲炉裏(いろり)に火を炊(た)いであだっていたど。
なんだが、ぶるって来るようなさびしい気分になってるど、本堂の方がら、誰だか来るようたど。
誰だろ、と思って襖開(ふすまあ)げたど。
そしたら、美しい女(おなご)が入って来たんたど。
「三味線(しゃみせん)聞かせんべえ」
って、三味線をザンコ、ザンコ弾(ひ)き鳴(な)らしたど。
すっと、不思議なごどに、小間物売りの男の首に、キリキリッと、糸が掛かって、首絞(し)められたど。男は、
「これぁいかん」
と思って、箱から小刀(こがたな)を出して、その糸を切ったんだど。すっと女は、
「これ、お客さま、もっと三味線聞いてくれじゃあ」
って、三味線持ち替(か)えで、またザンコ、ザンコど弾いだんだど。
そしたらまた、男の首に糸巻きついたど。
そして、キリッと絞めたど。
そんで男は、また、小刀でその糸をカリリと切ったど。
そんなことが何回(なんけえ)も続いたど。
そして夜中になったど。
男は思い切って、小刀でその女を刺したど。
したら女は、
「あれ―、お客さまは何をするの」
って、荒々しぐ二階へ駆(か)け上がって行ったど。
男は、早ぐ夜が明ければいいがと思っていたど。
そのうちに夜が明けたんで、あの女はなじょになったべ、と思って二階へ上って見だら何もいねがったど。
不思議だなと思って、あっちこっち探したっけぁ、隅っコの方に大っきなザルのようなものが、
「ウ―ン、ウ―ン」
ど、うなってらったど。
よっぐ見るど、それは大っきな古蜘蛛(ふるぐも)だたど。男は、
「こんなもん、生がしておがんねえ」
って、すっかり切り殺したど。
どんとはらい。
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