3-18『猿(さる)の生肝(いきぎも)』
―鹿児島県―
昔、竜宮の神さまのひとり娘、乙姫(おとひめ)が病気になったので、法者(ほうじゃ)に占ってもらったと。
法者はムニャラ、ムニャラ占いをやって、
「この病気は、猿の生肝をさしあげなければ、なおる見込みがありません」というた。
竜宮の神さまは、亀(かめ)を使いに立てて遠い国へ猿をさがしにやった。
亀はさがしにさがして、ようやく、とある島の海辺の岩の上で、海のかなたをながめていた猿を見つけたと。
「猿どの猿どの。お前は竜宮へ行って見たくはないかい」
「いちどは見物してえもんだと思うてはいる」
「そんなら連れていってあげようか」
「ほんとかい、亀どん」
「ほんとさ。俺れの背中に抱きついておれば、竜宮までは目(ま)ばたきする間じゃ」
といわれて、猿は喜んで亀の背中に抱きついた。
亀が海の水をひとかきしたと思ったら、いつの間にか竜宮へついていたと。
竜宮では、たくさんのごちそうを出し、魚のきれいどころの舞いなども見せて、しばらくの間、猿を遊ばせたと。
ある日、蛸(たこ)と針河豚(はりふぐ)と猿とが酒を呑んでいたら、酒に酔った蛸と針河豚が、
「ほんとうは乙姫さまに、お前の生肝を差し上げることになっているんだ」
「そうだ。お前の命はながくはあるまいぞ。だから、さあ呑め、今のうちにたくさん呑んでおけ」
「いや、ゆかい、ゆかい」
というて、口をすべらしたと。
猿はゆかいどころでない。びっくりして、ただよりこわいものはないと思ったと。何とか逃げ出す算段をしなくては、と思案した。
「いやぁ、すまないことをした。亀どんに誘われたとき、実は肝をほしているときだったんだ。すぐに帰ると思ったものだから、ほしたままにしてきた」というた。
そしたら、竜宮の神さまもこれを聞いて、
「肝を島に忘れたとあれば致し方がない。早く行って、とって来なさい」
というて、また、亀と一緒に帰してやったと。
島に着くと猿は岩をつたって高い所へ行った。そして、
「やあやあ、俺れの生肝をとろうたぁ、とんでもねえやろうたちだ。生肝を忘れたぁなんぞ、まっかなうそ。第一、肝なんぞとりはずし出来るもんか。そおれ、これでもくらえー」
というて、大きな石を転がし落とした。石は亀の背中に当って、ひびが入ったと。亀の甲らは、これ以来、今だにひび紋様がついたままだと。
亀が竜宮に帰って神さまに報告したら、蛸と針河豚が告口(つげぐち)したことがわかって、その罰として、蛸は骨を抜かれ、針河豚はうちくだかれて、骨が外へばらばらになって飛び出し、いまのように針だらけになったそうな。
そしこんむかし。
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