3-32『天福地福(てんぷくちふく)』
―新潟県―
昔昔、あるところに正直爺(しょうじきじい)と欲深爺(よくふかじい)とが隣あって暮らしてあった。
ある年の正月元旦のこと、正直爺が婆と二人で村の鎮守様(ちんじゅさま)へ初詣に行ったら、隣の欲深爺に出合うた。
「おめでとうさん」
「おめでとうさん」
と、あいさつをかわしたあと、欲深爺が、
「さっき見とったら、二人してながながと掌(て)を合わせていたな。そんなに何を祈願(きがん)していたや」
と、聞いてきた。正直爺、
「なに、去年一年間婆さと二人、病気もしないでまずまずだった御礼と、今年も二人の無事息災を祈願していただけだ。な、婆さ」
「はえ、はえ」
と、言うたら、欲深爺
「それだけか、お前達(めたち)らしいな」
と、言うた。正直爺が、
「爺さは何祈ったや」
と、聞いたら、欲深爺、
「おれは、そのう、おれらしくだ」
と、いう。
「福付(づ)かせってか」
「まあ、そうだ。今晩寝たら夢知(じ)らせがあるじゃろ。何事も願わにゃ叶(かな)わんからの」
「そうじゃのう。いい初夢を見てくらっしゃい」
と、言うて、正直爺と婆は家に帰ったと。
あくる正月二日の朝、正直爺が庭前(つぼまえ)に出たら、欲深爺が道端に待っていて、にっこ、にっこして、
「どうじゃった。いい初夢を見たかや」
と聞いてきた。正直爺、
「ン、そう言う爺さこそ言いたくてたまらんという顔していなさる。いったい、どんな初夢見たや」
と、聞き返した。
「聞きたいか。あ、いや、言わんでもええ、聞きたいに決まってる。実はな、地から福を授かるっちゅう夢じゃった。地福の夢じゃ。どうじゃ、いい夢じゃろう」
「ほう、地福な。うん、お前らしい、いい夢じゃな」
「そうじゃろ、そうじゃろ、して、お前はどんな夢見た」
「まあ、なんだ、地福っちゅうことはないな。それでも、わしらにとっちゃあ、もったいない夢じゃった」
正直爺がこう答えたら、欲深爺は満足げににっこ、にっこして、
「ま、なんだ。お前はお前なりにいい夢見たちゅうことだ。初夢は正夢(まさゆめ)というから、お互い、叶うといいな」
と、言うて帰って行った。
それから幾日かして、正直爺が畑へ行って土おこしをしていると、鍬(くわ)の先がカチンと何かにぶつかる音がした。
「はて、この畑の石はすべて除(の)けたはずじゃがのう」
と、言いながら土を除けていったら、カメが埋まっている。蓋(ふた)を取ってみて驚いた。なんとカメの中にはピカピカ光った大判小判がぎっしり詰まって入っていた。
「こりゃしかし、地から授かった物だから地福じゃなあ。隣の爺さの物だ」
と、言うて、正直爺、仕事を早じまいして隣の欲深爺の家へ知らせに寄った。
「爺さ、爺さ、お前の初夢が叶うた。畑から金(かな)ガメが出た。地福だからお前のだ。早よ行って取って来なされ」
と、言うて、有り場所を教えたと。
隣の欲深爺、喜んで畑へ行った。畑には掘りおこした跡があって、その中にカメがひとつあった。
「これこれ、これじゃ、これこそまさしく地福。この中に大判小判がザックザク。こりゃたまらん」
と、喜んでカメの蓋を取って・・・見て魂消(たまげ)た。カメの中には蛇がウヤウヤと入っていた。欲深爺、
「隣りの貧乏ったれ爺の奴、おれをたぶらかしやがって。どうしてくれよう。ようし、見とれ。今度はおれが魂消らかしてくれよう」
と言うて、そのカメを持って正直爺の家へ行った。梯子(はしご)をかけて屋根の上にのぼり、煙出(けむだ)し窓から下をのぞくと、正直爺は囲炉裏端で腹あぶりをして大平楽(たいへいらく)の様子。
「おれをたぶらかしておいて、なんたる態度。えい、しゃくにさわる」
欲深爺は、カメの蓋を取って、煙出し窓からカメの中の蛇をバサバサと正直爺の頭の上めがけてこぼした。
そしたらなんと、蛇ではなくて、大判小判になって、ジャン、ジャラリン、ジャン、ジャラリンと、こぼれ落ちたと。正直爺、
「婆さ、婆さ、天からお金が降ってきた。天から福が授かった。天福じゃ、天福じゃ」
と、いうて、婆と二人で小踊りして喜んだ。
正直爺の見た初夢は、天福の夢だったと。
正月二日の初夢が正夢となって、正直爺と婆は福々長者になったと。
いちごさっけ、鍋の下ガリガリ
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