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아우님이 이토록 활약하는 줄 몰랐습니다. 옹근 2년이나 사이트들에서 잠적하다가 돌아오니 아우님이 보이시네. 반갑수다. 이제 우리 만나면 그간 회포를 잘 풀어 봄이 어떠하리오...
곧 《간도빨치산의 노래》전문을 싣도록 하겠습니다. 이 글은 연변문학 2013년 제2기와 제3기에 실렸던 글입니다. 연변문학 2기에 조선글로 된 원문이 실려있습니다.
좋은 글 잘 읽었습니다. 《간도빨치산의 노래》전문은 어디에서 볼수 있습니까? 읽어보고 싶은데요.그때 상황도 더 료해해보고...
참 의미심장한 이야기 입니다.
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2-52『蛙聟(かえるむこ)』
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2011-11-13
2-52『蛙聟(かえるむこ)』 ―岩手県江刺郡― むかし、あるところに爺さんと婆さんが暮らしていたと。 子供がなかったので、何をするにも張り合いがない。 それで、毎朝毎晩、畑の行き帰りに道端のお堂の観音様へ掌(て)を合わせては、 「人並みの子でなくてもいい、蛙のような子でもいいから、自分の子と名のつくものを授けて下され」 と願をかけていたと。 そしたら、婆さんのお腹が大きくなって、やがて、赤子が生まれたと。 生まれたは生まれたが、それが、蛙のような顔形の赤子であったと。 爺さんと婆さんは、喜ぶやな嘆くやら。それでも、願をかけて神様から授かったのだから言うて、てんてこ舞いしながら、なめるように育てたと。 子供はぐんぐん大きく育って、はや、年頃になったと。 爺さんと婆さんは蛙息子に嫁ごを迎えようとして、方々(方々)探したが、こんな顔形だから誰も来てはなかったと。 そしたらある日、蛙息子が、 「これから嫁ご探しに出かけますから、蕎麦(そば)の粉を一袋下さい」 というて、蕎麦の粉一袋をもって出掛けていったと。 いくがいくがいくと、ある村に大分限者の家があって、そこには、きれいな姉と妹の娘がいた。蛙息子は、 「ここのがええ」 というて訪ねて行き、泊めてもらったと。 そして真夜中になってみんなが眠ったころ、蛙息子ひとり起き出て、姉娘の寝ている所へそっと忍び入り、蕎麦の粉を姉娘の口のまわりに塗りつけ、袋をその枕元に置いて来たと。 さてと次の朝、蛙息子は早起きして分限者に向かって、 「朝ご飯を食べようとしてみたら、寝るとき自分の枕元に置いといた蕎麦の粉が無くなっていた。きっと、ここの娘のどちらかが物珍しくて食ったにちがいない」 と騒ぎたてた。分限者は、 「わしの娘にかぎって、そんなことはない」 というけれども蛙息子は聞かない。 「もし食っていたらどうするか」 「もしそうなら、お前のいいようにしていい」 「それじゃ、俺の嫁ごにするがいいか」 「娘が本当に盗ったのなら、この家の恥になるから家には置けない。勝手に連れて行くがいい」 分限者と蛙息子は姉妹の寝ている座敷に行ってみることになったと。 そうしたところが、姉妹の枕元には袋があり、口のまわりには蕎麦の粉がいっぱいくっついている。 姉娘は身に覚えのないことだが、確かに枕元には蕎麦の袋があり、口には粉がついているので、どうにも言い訳出来ないのだと。 「でも・・・でも・・・私、食べてないもん・・・」 と泣きながら訴えるけれども蛙息は聞かない。 「約束通り、俺の嫁ごに連れて行く」 と蛙息子が言うと、分限者も、 「ふびんだが、盗みをするような娘はわしの娘とは思わん。この男は顔形はよくないがこれもお前の身の定めじゃろう。一緒に出て行きなさい」 というた。姉娘は、親が決めたのなら仕方ないと、泣く泣く蛙息子と連れ立って家を出たと。 家に帰り着くと、爺さんと婆さんは、三国一の嫁ごだいうて大喜びして迎えてくれたと。 祝言のかための杯を交わしたら、姉娘はいよいよ仕方ないと諦めたと。 そしたら蛙息子が火吹竹を持って来て、 「これで俺の背中を思いっきり叩いてくれ、竹が割れるほど打ちすえてくれ」 というた。 姉娘は、いっそ打ち殺してやりたいと思って、力をこめて、何度も何度も叩いたと。 そしたらなんと、醜(みにく)かった蛙息子が「ぐわっ」とひと声ほえて、たちまち三国一の景色のいい男に変ったと。そして、 「今まで蛙のような姿だったが、俺は神の授け子で、これが本当の姿だ」 というたと。 爺さんと婆さんは、三国一(さんごくいち)の蛙聟(かえるむこ)と三国一の嫁ごを持って、一生安楽に暮らしたと。こりぎりぞ。
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2-51『お月お星』
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2011-11-13
2-51『お月お星』 ―宮城県― むかし、あるところにお月(つき)とお星(ほし)という二人の娘がいたと。 お月は亡くなった先妻(さんさい)の子で、お星は継母(ままはは)の子であったが、二人はとても仲が良かったと。 継母は娘のお月を 「お月は何ていやな子だべ」 いうて、憎んで憎んで、いつか殺してやろうと思っていたと。 あるときのこと、父親が急用で上方(かみがた)へ出かけて行った。継母はこのときとばかり、お月を殺す恩案をしたと。 妹のお星は母親のたくらみを知って、 「姉さん姉さん、今夜はおらの布団さ一緒に寝るべ」 いうて姉を誘い、姉の布団の中には西瓜を寝させておいたと。 そうとは知らない継母は、そっと忍んでそれを出刃包丁で突き刺したと。 「これでもう憎らしいお月も死んだべ」 とにんまりしていたら、翌朝になってお月が 「母さん、お早うござりす」 と朝のあいさつをしたのでくやしがったと。 そこで今度は、継母は石の唐櫃(からびつ)の中にお月を入れて、奥山へ運んで行って穴の中へ埋めさせることにしたと。 妹のお星はこれを知って、石屋にそっと頼んで、唐櫃の底に小さい穴を開けてもらったと。そして姉のお月に、 「姉さん、この芥子(からし)の種を持って行ってけさい。唐櫃の中からこの芥子の種をこぼしていけば、春になったら芥子の美しい花コ咲くべから、それをたどりたどり必ず助けに行くから」いうて芥子の種を渡したと。 お月は、お星からもらった芥子の種を石の穴からポトリポトリこぼしながら、山へ連れて行かれ、穴の中へ埋められてしまったと。 やがて冬が去って春が来たと。 野山に花がほころびはじめ、お月のまいて行った芥子の種が芽を出して、美しい花が咲いたと。 お星は母に弁当を作ってもらい、山遊びに行かせてもらった。 お星は芥子の花の咲いている道をたどって、山の奥へ奥へと分け入ったと。そして声いっぱいに、 「お月姉さん、お月姉さ―ん」 と呼ぶと、向こうから細い声で、 「ホ―イ、ホ―イ」 という返事が聞こえて来た。 お星は急いで穴を掘って、石の唐櫃を開けると、お月を救い出したと。 お月はもう、骨と皮ばかりに痩せ細って、髪の毛はト―キビの毛のように赤く縮れていたと。 「んでも姉さん、よく生きていただ」 「おら、お星がくれた芥子の種の残りを食べて、やっともちこたえただ」 いいあって、二人は抱き合って嬉れし泣いたと。 「姉さん、これからまた家さ戻っても殺されるべから、どこか遠くさ行くすべ」 いうて、お月とお星は、手をたずさえてどこへともなく姿を消したと。 それから間もなく、旅に出ていた父親が家へ帰って来たと。土産をいっぱい持って来たが、お月もお星も姿を見せない。女房に 「ふたりは、どこさ行っただ」 とたずねると、女房は、 「たぶん、山さでも遊びに行ったのだべ」 と知らんぷりをしている。 しかし何日待っても娘たちが帰って来ない、父親は心配のあまり六部(ろくぶ)になって、お月とお星を探しに出かけたと。 お月お星が いるならば 何しにこの鉦(かね)っコ 叩くべや カ―ン カーン と鉦を叩きながら、どこまでもどこまでも探し歩いたと。 これが鉦叩き鳥のはじまりだと。 お月とお星は、空高くのぼって行って、お月さんとお星さんになったともいわれとる。 えんつこもつこ さげえた。
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2-50『ホー爺(じい)さん』
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2011-11-13
2-50『ホー爺(じい)さん』 ―長野県上伊那郡― ここは信州上伊那(しんしゅうかみいな)の川島村(かわしまむら)というがな、 あれは儂(わし)のまだまだ子供の頃だった。村に一人暮らしの爺様がいてな、村の人はこの爺様のことを、「ホー爺(じい)」と呼んでいた。 ホー爺が春早く粟(あわ)をまく畑をさくりに行った。水上(みながみ)神社へ手を合わせてから近くの畑へ行くのだが、 「もうそろそろ昼だ、むすびでも食べるとするか」 と独り言を言いながら、腰に着けていたおむすびの包をとって上手の芝原(しばっぱら)に腰をおろし、風呂敷包みを開いた。 が、まずは一ぷく吸ってからと思って、きせるを取り出して煙草に火をつけ、ふーっと一息吐いてから、どれ、むすびを食べようと手に取って見て驚いた。 むすびは、石になっていたと。ホー爺は、 「こりゃやられた」 と言って、家に帰ってからお昼を食べたそうな。 ホ―爺は、次の日もその畑へ行って仕事をした。腰が痛くなるほど鍬(くわ)を振り下ろしいたら、いつの間にか夕方になっていた。 「ほう、もうこんな時分か、帰らにゃぁ」と言って、鍬をつかんで畑を出ようとすると、そこは土手で、どうにも出られねえ。 どろも変だと思ったとき、ホー爺は、やられたな、と気がついた。で、肩にかついだ鍬を 「どっこいしょ」 と、大きな声で足元の土に振りおろした。 すると、でっかい狐が足元から飛び出してもんどり打って畑の向うの藪(やぶ)の中へ逃げたと。 そのとたんに、あたりの夕景色(ゆうげしき)が昼間の明るさに変って、ホー爺は畑の真中に立っていたそうな。 ホー爺は、その次の日もまた同じ畑で仕事をしていた。 すると旅の人が来て、「今日は」と言って道端の土手の石に腰をかけて休んだので、ホー爺も土手に腰をおろして一ぷく吸うことにした。 煙草入れを出しながら、「どこまで行くだね」と聞くと、「この村の奥まで」と言う。 「そうかえ、そりゃまだ遠いなぁ」 と話をしながら、ホー爺が火打石でカチカチと煙草に火をつけていると、旅人は、袂(たもと)から紙に包んだものを取り出して、 「こんなものだがおあがり」 といって、ホー爺の膝の上に置いて、 「それじゃあ」 と言って行ってしまったそうな。 ホー爺は、何をくれたのかなぁと思って手に取ってみると、それは枯れた木の葉に包んだ小さい石ころだったそうな。 家に帰ってから、近所の人に、この三日間のことを話したら、 「三度も同じ所で化かされたなんて、ホー爺もしっかりしなけりゃ駄目だぜ」 と笑われたと。 ある日、誰かがホー爺に、 「狐の嫁様でも世話をしてやるか」 と言うと、ホ―爺は、 「馬鹿にしんな、狐の嫁とるくれえなら、独りでなんかいるものか。今に見てろ、良いばあさんに来てもらうでな」 と言って笑っていたが、いつの頃からか、ホー爺の家に婆さんがいるようになった。 近所の人は不思議に思ったが、ホー爺はいつものように働いている。その内、近所の人も、あまり気にしなくなっていた。 ある日の夕方、隣りの子供が、 「今、ホー爺の家へ、でっかい犬のようなものが入って行った」 と言うので、隣りの人はホー爺の家をのぞきに行った。が、家の中には何もいねえ。 「どうも、なにかおかしい」 と思って、家のまわりを回ってみると、土台の下に穴が掘られていた。 隣りの人は、早速わなを作ってその穴の所に仕掛けておいた。 すると、でっかい古狐がかかったと。 ホー爺は、うまい物はみんな狐に食われて自分はすっかり痩せほろけてしまったそうな。 昔はな、水上(みなかみ)竹ノ沢(タケンザワ)あたりには狐がいてな、よく人を化かしたもんだ。今はたんといなくなったがな。 それっきり。
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2-49『魚を盗んだキツネ神』
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2011-11-13
2-49『魚を盗んだキツネ神』 ―北海道日高地方― これは北海道日高(ひだか)地方のアイヌに伝わるお話 昔、かあさんギツネが石狩の村の裏山に暮らしていた。 かあさんギツネは子沢山(こだくさん)で、食べ物さがしに大いそがしだったと。 ある日のこと、いつものように川岸を歩いていると、向こうから石狩の長者さまがやって来た。 長者さまは魚をつかまえると柳の木の枝に魚をしばり、それを川の中へ沈めては、また、他の魚をねらって川岸を歩いていったと。 かあさんギツネは、長者さまに見つからないように、こっそりと、柳の木の枝をひとつ引き上げた。 「長者がこんなにたくさんとったのなら、お腹を空(す)かせた子供たちの為に、ちょっと一匹いただいて行きましょう」 かあさんギツネが魚をくわえて行ったあとに、長者さまが戻って来た。 「さてさて、今日はたくさんとれたわ い。ひい、ふう、みい、よお・・・ありゃりゃ、一匹足りない。誰かわしの魚を盗んだぞ。こりゃバチをあててもらわずにはおかないぞ。 村にいる神様たち、山にいる神様たち、このふとどき者に、どうかバチをあてて下さい」 長者さまがあんまり文句を言うもので、神様たちも大弱り、あちこちから集まって来て、かあさんキツネに文句を言ったと。 「困ったことをしてくれたもんだ。キツネのおっかさん。キツネも神様の仲間なのに、なんだって人間のとった魚を盗んだりしたんだ。おかげで石狩の長者から、夜も昼も苦情かきて、村の神様たちも山の神様たちも、おちおち暮らしていられない。 お前のようなやつは、さっさとここを出て行ってくれ」 かあさんギツネは裏山から追出されてしまったと。かあさんギツネは、 「かわいい子供たちに食べさせるために、たった一匹とっただけなのに、長者があんなに文句を言うなんて、そのおかげで、私は神様仲間でいられなくなってしまった。 これもみんな石狩長者のせい。ああ、くやしい。雨よ降れ、雨よ降れ。どんどん降って石狩の村をめちゃくちゃにしてしまえ」 そういいながら跳ね回ると、たちまち雲が出て、大雨が降り出した。 あっというまに川はあふれんばかり。 かあさんギツネはそれでも止(や)めずに、石狩の長者さまの家の前に行って、パウパウ鳴きながら走り廻ったと。 雨はますます激しくなって、長者さまの家もなにも、みんな流されそうになったと。 家から出て来た長者さまが、かあさんギツネを見つけて、やっと、事の次第に気がついた。 「しもうた。とんだことをしたもんだ。魚を盗ったのはキツネの神様だったか。子供たちに食べさせるために盗ったのなら何もあんなに文句をいうことはなかったのに。 キツネ神様、私が悪うございました。あやまりますから、どうか、この雨を止ませて下さい。石狩の村が全部流されてしまいます」 石狩の長者さまがあやまったので、かあさんギツネはパウパウ鳴きながら自分の家に引き返し、家の中から様子を見ていたと。そしたら 長者さまは、くり返し、かあさんギツネにおわびをし、村の神様たちにも、山の神様たちにもあやまったと。 それで、かあさんギツネも機嫌をなおし、パウパウ鳴くのを止めたので、雨も小降りになってきて、村も流されずにすんだと。 キツネでも人間でもお腹の空くのは同じなのだから、魚の一匹ぐらいケチケチするもんじゃあありませんとさ。
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2-48『小鮒(こぶな)の夢』
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2011-11-13
2-48『小鮒(こぶな)の夢』 ―秋田県― 昔、あったずもな。 川の中にいた小鮒(こぶな)のせいしょう、ある晩夢みたずもな。 四本柱立って、サラサラ雪降って、濁(にご)った川さドブンと落ちだ夢だったずもな。 朝間(あさま)に起きで、あまり気持悪ぐで、河鹿の法印様のどごさ占っつもらいに行(え)ったど。 「法印様、おれ、こんた夢見だども、いい夢だが占ってけれ」 「ん、どれどれ」 て、法印様言って、算木(さんぎ)やめどぎ(筮)おろして占ってたば、 「お前(めえ)ナ、あまりいい夢でねぇ。食物に気つけねぇば、生命にかかわる。気を付げだ方良(え)え」て、言ってくれたら、小鮒のせいしょう面白ぐなぐでハァ、心配でならねがったど。 小鮒のせいしょう、やがてまな板の上さあげられ、包丁でうろこおろされだと。して、味噌汁の中さ、ドブンと入れられて、煮られてしまったど。 法印様が占い、小鮒のせいしょうが見た夢は、四本柱はまな板で、サラサラ雪降るのが包丁でうろこをおろされるで、濁った川さドブンというのは、味噌汁のことであったわけだ。 これきって、とっぴんぱらりのぷう。
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2-47『怠(なま)け神(がみ)』
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2011-11-13
2-47『怠(なま)け神(がみ)』 ―山梨県― むかし、あるところに大変な怠(なま)け者(もの)がおったと。 自分の食う物をとるのさえ億劫(おっくう)なくらいで毎日寝てばかりの暮らしだったと。 屋根は雨漏(あまも)りさせとくし、壁(かべ)が落ちても塗(ぬ)りかえないし、家の隅(すみ)に黴(かび)や草が生えてもそのままだし、それでも働く気にならなかったので、嬶(かか)も子(こ)もつくづく愛想(あいそ)をつかして実家(じっか)へ帰ってしまったと。 それでも怠け者は 「なあに嬶子も、いなけゃいないで、これでさばさばしたもんだ」 いうて、ゴロゴロ寝ておったと。 ある日、戸口に掌(てのひら)に載せられそうな、小っこい、痩せっぴいの哀れっぽい男がやって来て、 「わしは、お前の名前を慕(した)ってわざわざ訪ねて来た者(もん)じゃが、ぜひ置いて来れんか」 という。怠け者が、 「置くも置かんも、見る通り嬶も子も逃げ出す有様(ありさま)だで、食うものとて無い。とても他人(ひと)様を置いてやるわけにゃ行かん」 と答えると、その小男は、 「いや、わしは、そういう怠け者の貧乏人が大好きだ。それでわざわざ訪ねて来たのだから、どうにでも置いてもらうつもりだ」 といってきかない。 怠け者は、これ以上問答するのもおっくになって、「そんじゃあ」といって家に入れてやったと。 その日から二人して、毎日ゴロゴロ寝ておったと。 そしたら、妙(みょう)な事(こと)に、小っこい痩せっぴいの男が次第にムクムクと肥えて大きくなりだしたと。 日が経(た)つにしたがって、肥(こ)えるは肥えるは家一っぱいに肥えて、しまいには、怠け者が隅っこへギュ―と押しつけられて、寝る場所もないようになってしまったと。怠け者は、 「お前は、来たときにはあんなに小(ち)っこい痩せっぴいだったのに、一体全体どういうわけだ」 と聞いてみた。そしたら、 「わしは、実は怠け神だ。ここへ来る前までは大へん稼ぎ者の金持ちのところに居て、それであんなに痩せて小っこくなるまで、ひどい目にあった。 ところが、お前の所へ来てからは、お前が怠けてばかりいてくれるから、わしもこんなに肥える事が出来て大変ありがたい」 といってご機嫌(きげん)ものでニコニコするのだと。 そのうちにも、その怠け神はムクムク肥えて、とうとう、怠け者を家の外へ押し出してしまったと。 家の中におれなくなった怠け者は、さすがにこの寒む空に外で寝るわけにもいかない。 仕方なく他所(よそ)へ行って仕事の手伝いでもして飯と寝る所をもらうより仕様(しよう)がなくなった。 そうして、だんだんやってみると、稼ぐという事もそんなに嫌な事でもなし、稼げばきっと二文なり三文なりの金ももらえ、飯も食えるし、人もまっとうに見てくれるので、怠け者は、だんだん稼(かせ)ぐようになって行ったと。 ところが、そうして働いて晩方(ばんかた)我が家へ帰ってみると、家いっぱいに肥えていた怠け神は、ひどく不機嫌(ふきげん)な泣き顔をして、前よりはずっと痩せて来たようだと。そして、 「おいおいお前、稼ぐなんちゅうくだらん事はやめろ」 というのだと。 けれども怠け者は、今では稼ぐことがすっかり面白くなって来たので、ますます働いたと。 すると怠け神もズンズン痩せ細って、しまいにはまた元の通り、糸のように細い、豆っ粒のような小っこい男になったと。そして、 「これではとても居たたまれん」 といって、ある日、とうとうその家から逃げ出してしまったと。 怠け者だった男は、今ではすっかり働き者になって、家も建て直し、身代も出来て、嬶や子も呼び戻し、みちがえるような暮らしをしたと。
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2-46『爺(じい)と猿と猫と鼠(ねずみ)』
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2011-11-13
2-46『爺(じい)と猿と猫と鼠(ねずみ)』 (猿の一文銭) ―鳥取県― むかしむかし、あるところに爺(じい)と婆(ばあ)が住んでおったと。二人は、婆が木綿(もめん)を機織(はたお)り、爺がそれを町へ売りに行って暮(く)らしをたてていたと。 ある日、爺が木綿を町へ売りに行って、山路(やまみち)を帰って来たら、キ―キ―と猿の鳴(な)き声がした。 あたりを見まわしたら、向こうの木の枝に母猿(ははざる)がいて、猟師(りょうし)が鉄砲(てっぽう)でねらっているところだった。 母猿は手を合わせて、こらえてくれという様子をして拝(おが)んでいる。 猟師が今にも引き金を引こうとしたとき、爺はわざとハックションと大きなクシャミをしてやったと。 そしたら鉄砲の筒先(つつさき)がそれて、弾玉(たま)は爺の肩先(かたさ)に当ったと。 猟師は、とんだことをしたと思って、逃げてしまったと。 爺がうずくまっていると、どこからともなく子猿たちが現れて、傷口をなめたり、草をもんではりつけたりして介抱(かいほう)をしてくれたと。 そして手車(てぐるま)を組んで爺を乗せ、猿の家へ連れて行ったと。母猿が、 「先ほどは危(あや)ういところを助けていただきありがとうございました。」 といって、猿酒(さるざけ)だの果物(くだもの)だの、次から次へと御馳走(ごちそう)してくれたと。 爺が、婆が心配しているからもう帰るというと、母猿は一文銭をひとつくれたと。 「これは「猿の一文銭」といって、世にも大切な宝物ですが、命(いのち)の親様(おやさま)にさしあげます。これを祀(まつ)っておくと金持ちになれます」 というので、ありがたくもらったと。 猿たちは、また、手車に乗せて爺を元の所まで送ってくれたと。 爺が家に帰ったら婆は、 「年の暮も近いというのにそんな怪我をこしらえて、よけいなことをするから・・・」 と愚痴ったと。爺は、 「ほんだけど、そのおかげでこんなええ物(もん)もらった」 といって、猿の一文銭を見せたら、機嫌(きげん)をなおしたと。 猿の一文銭を神棚に(かみだな)に祀っておいたら、婆の機織はどんどんはかどるし、爺が木綿を売りに行ったら、これは上物(じょうもの)だといってすぐに高い値(ね)で売れるし、わずかの間にお金が貯ったと。 爺と婆がにわかに金持ちになったので、近所の人がそのわけを聞きに来た。婆が猿の一文銭のことを自慢げに話してやったと。 そしたら、知らない間にその宝物が盗まれて終(しま)ったと 爺と婆はびっくりして、ほうぼう尋ね歩いてみたけれど、どうしてもありかが知れない。 そこで、家に飼っているタマという猫を呼んで、婆は、 「タマよ、猿の一文銭を三日のうちに捜(さが)しておいで。捜して来てくれたら御ほう美をやる。捜し出して来なければ、これだ」 といって、短刀をギランと抜いて見せたと。 タマはあわてて家を走り出て、すぐに一匹の鼠をつかまえたと。そして、 「鼠よ、うちの宝物が無くなった。三日のうちに見つけて来い。見つけて来たら助けてやる。もし見つけて来ないと尻尾まで食ってしまうぞ」 とおどかしたと。 鼠は食われると大変だから三日の間あちらこちらの家々をまわって猿の一文銭を捜したと。そうして、やっと隣の家の箪笥(たんす)の中にあるのを見つけて、引き出しをかじってそれを取り出し、持って来てタマに渡したと。 タマは喜んでそれをくわえて爺に渡したと。 爺も婆もタマも鼠も、ともどもに大喜びでみながみな、いつまでも繁昌(はんじょう)したと。 めでたしめでたし。
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2-45『雁(がん)とり爺(じ)っちゃ』
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2011-11-13
2-45『雁(がん)とり爺(じ)っちゃ』 ―山形県― むがし むがし。 あるところに、爺っちゃと婆っちゃと居てあったど。 爺っちゃ 山さ芝刈(しばか)りに、婆っちゃ 川さ洗濯に行ったど。 そしたら、川上(かわかみ)から箱っコ流れて来だど。 婆っちゃ 拾って開けて見だらば、白い小犬っコ入っていだど。 「ありゃあ めんこい犬だごど」 ど言って、家さ帰(け)えって爺っちゃと相談して、飼うことにしだど。 小犬っコ だんだん大きくなって、あるどき、爺っちゃ 山さ連れで行ったらば、犬、爺っちゃを引っ張って、ある所(どこ)の土をガサガサどひっ掻(か)くのだど。 爺っちゃ 不思議なことだと思って、そこ掘っで見だらば、大っきな瓶出て来て、中さ一杯宝物入っていだど。 爺っちゃ 喜んで、瓶持って帰(け)えったらば、隣りの爺っちゃ それ見でて、あくる日、 「白い小犬っコ、貸してけれ」 ど言って来だど。 断(こと)わる事も出来ねぐて、貸してやったらば、隣の爺っちゃ、犬っコ連れで山さ行ったど。 して、ガサガサっど犬がひっ掻く所掘って見だらば、瓶(かめ) 出て来だど。開けで見だらば、糞だの、瓦(かわら)のかけらだの、一杯入っていだど。 隣りの爺っちゃ、怒って、犬を殺してしまったど。 爺っちゃ それ聞いで、山さ行って、犬を埋けで、そこさ松の木一本植えでおいだど。 そしたら松の木、スック、スック伸びで、大きぐ大きぐなっだど。 爺っちゃ、松の木切っで、木臼(きうす)こしらえて、それで籾(もみ)を碾(ひ)いだど。そしたら、米の替わりに宝物、一杯出はって来たど。 隣りの爺っちゃ、それ見で、今度(こんだ)ぁ、 「木臼 貸(か)しでけれ」 ど言っで来だど。 断ることも出来ねぐて貸してやっだど。 隣りの爺っちゃ、それで籾を碾いだらば、糞だの、瓦のかけらだの一杯出はっで来だど。 隣りの爺っちゃ、怒っで、怒っで、木臼をたたき割って、燃してしまっだど。 爺っちゃ悲しぐて、その木臼の灰を貰って帰ったど。 帰り道で、空に雁(がん)が飛んでいたので、雁さ灰をまいたらば、雁の眼(まなぐ)さ灰が入って、バタバタと落ちて来だど。 爺っちゃ、喜んで、婆っちゃと雁汁こしらえて食ったど。 隣りの爺っちゃ、ねたんで、かまどの下さ残った灰を集めて屋根へ上っだど。して、 「我(わ)れも雁を落としてくれろ」 ど言って、空を渡る雁さ灰まいだど。 そしたらば、雁の眼さ入らないで、自分の眼さ入って、目が見えなぐなってしまっだど。 とっぴんぱらりのぷう。
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2-44『蜘蛛女(くもおんな)』
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2011-11-13
2-44『蜘蛛女(くもおんな)』 ―岩手県― 昔あるどごろに、小間物(こまもの)の行商(あきない)している男がいであったど。 ある在郷(ざいごう)を行商して歩(あり)いている内(うち)に、道に迷ってしまったど。行けば行ぐほど山深くなって、すっかりまいってしまったど。 そしたら、ちょうどいい按配(あんばい)に、谷底(たにそこ)に古寺(ふるでら)が見つかったんだど。小間売りは喜んでその古寺に行って見たど。 人っコが誰もいねえ、空寺(からでら)だっだど。 そんで、中に入(へえ)って、囲炉裏(いろり)に火を炊(た)いであだっていたど。 なんだが、ぶるって来るようなさびしい気分になってるど、本堂の方がら、誰だか来るようたど。 誰だろ、と思って襖開(ふすまあ)げたど。 そしたら、美しい女(おなご)が入って来たんたど。 「三味線(しゃみせん)聞かせんべえ」 って、三味線をザンコ、ザンコ弾(ひ)き鳴(な)らしたど。 すっと、不思議なごどに、小間物売りの男の首に、キリキリッと、糸が掛かって、首絞(し)められたど。男は、 「これぁいかん」 と思って、箱から小刀(こがたな)を出して、その糸を切ったんだど。すっと女は、 「これ、お客さま、もっと三味線聞いてくれじゃあ」 って、三味線持ち替(か)えで、またザンコ、ザンコど弾いだんだど。 そしたらまた、男の首に糸巻きついたど。 そして、キリッと絞めたど。 そんで男は、また、小刀でその糸をカリリと切ったど。 そんなことが何回(なんけえ)も続いたど。 そして夜中になったど。 男は思い切って、小刀でその女を刺したど。 したら女は、 「あれ―、お客さまは何をするの」 って、荒々しぐ二階へ駆(か)け上がって行ったど。 男は、早ぐ夜が明ければいいがと思っていたど。 そのうちに夜が明けたんで、あの女はなじょになったべ、と思って二階へ上って見だら何もいねがったど。 不思議だなと思って、あっちこっち探したっけぁ、隅っコの方に大っきなザルのようなものが、 「ウ―ン、ウ―ン」 ど、うなってらったど。 よっぐ見るど、それは大っきな古蜘蛛(ふるぐも)だたど。男は、 「こんなもん、生がしておがんねえ」 って、すっかり切り殺したど。 どんとはらい。
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106
2-43『弘法様(こうぼうさま)の衣(ころも)』
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2011-11-13
2-43『弘法様(こうぼうさま)の衣(ころも)』 ―山梨県― むかし、ある冬の日のこと、ある村に一人の旅のお坊さんが托鉢(たくはつ)に来たそうな。 身(み)にまとっている衣(ころも)は、色が褪(さ)め、裾(すそ)は裂(さ)けて、それが寒風(さむかぜ)にはためいていたと。 お坊さんは、一軒(いっけん)の大きな家の玄関口に立って、鐘(かね)を鳴らしてお経(きょう)を読みはじめた。 家の主人が出てみると、まるでみすぼらしい坊さんだ。 「ふん、乞食坊主(こじきぼうず)か、うちにはやるものは何もない。読経御無用(どきょうごむよう)、お通りなさい」 と、木(き)で鼻(はな)をくくるように言うて、ピシャンと戸を閉めてしまったと。 お坊さんは、黙(だま)ってそこを立ち去ったと。 次の日、 同じ家の玄関口に、今度は錦襴(きんらん)の袈裟衣(けさごろも)を着た立派なお坊さんが立って、鐘を鳴らしてお経を読みはじめたと。 家の主人が出てみると、今日は、どこの何様かと思うような立派なお坊さんが立っている。主人をはじめ、家中の人達がありがたがって、 「どうぞ、うちへ上って下され」 「どうぞ、もっとお経を読んで下され」 と、口々に言うて、手もみするのだと。 袖を引かれるようにして座敷に上ったお坊さまの前に、皿へ山のように盛られた、ボタ餅(もち)が出されたと。家の主人が、 「どうぞ、召(め)し上(あが)って下され」 と言うたら、お坊さんはボタ餅を手にとって、キラキラ光る錦襴の衣(ころも)へ、ベタベタとなすりつけたと。 家の人達があっけにとられているうちに、お坊さんは、取ってはなすり、つかんではなすり、出されたボタ餅をみんな、立派な袈裟衣へなすりつけてしまったと。 家の主人が、やっと気をとりなおし、 「何をなさる、せっかくのボタ餅をもったいない。その上、その立派なお衣を汚(よご)してしまうのは、まっと惜(お)しいこんじゃないか」 と、目を三角(さんかく)にして言うたと。 するとお坊さんは、 「昨日来たときは、何一つ寄進(きしん)されず邪見(じゃけん)に追い帰された。昨日のわしも、今日のわしも、わしはわし。違うているのは身にまとうている衣だけじゃ。してみると、お前達は、このボタ餅をわしにくれたわけではあるまい。わしの着ているこの衣にくれた事になる。だから、ボタ餅はみんな、衣に食わせてやったこれでよかろう」 こう言うと、ひょうと立って、帰って行ったと。 お坊さんは、諸国(しょこく)を巡(めぐ)って歩いていた弘法大師様であったと。 それも それっきり。
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2-42『出雲神(いずもがみ)の縁結(えんむす)び』
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2011-11-13
2-42『出雲神(いずもがみ)の縁結(えんむす)び』 ―兵庫県― 出雲(いずも)の神(かみ)さん言うたら、昔から縁結(えんむす)びの神さんじゃわな。朝から晩まで、何百組か何千組の縁結びをしていなさる。 それが毎日のことじゃて、初めの間(あいだ)ぁ、 「あそこの息子とここの娘。あの息子とこの娘」 と、選び選び言うていなさるが、昼頃になると、 「あれとこれと、あれとこれと」 と言うようになり、晩方になると、 「あれ、これ。あれ、これ」 「あれこれ、あれこれあれこれ」 になってしまわれる。 この、「あれこれ」になったら間違いが起きて、そんな縁組が不幸になるんじゃそうな。 ところで、縁結びの神さんにも娘のお子があって、その娘が三十歳にもなるのに、どこからも貰(もら)いに来ん。それで娘が腹ぁ立てたそうじゃ。 「お父さん。他人の事よりも実の娘の方が大事じゃろう。早ぅ私の相手ぇ決めておくれぇ」 「う、う―ん。実はもうとうに決まっとるのじゃが・・・、けど、あんまり不似合(ふにない)いな話で、つい言いそびれとるんじゃ」 「お父さんが不似合いじゃ思うても、行くのは私じゃで、どこの誰か言うておくれ」 「ほんなら言うが、実は遠い他国(たこく)の山奥で炭焼(すみや)きしとる、ど貧乏の男じゃ」 「私は、遠くてもど貧乏でもええ。今からその人のところへ行く」 言うて、娘は旅ごしらえして、聟(むこ)さんのおる山奥を探しに出かけたんじゃと。 山を越え谷を渡り、何日も旅をして、とうとう聟になる炭焼きの男に出合うたと。 「私はあなたの嫁に決まっとる者(もん)ですで、今日からここに置いてもらいます」 「そんな事ぁ俺は知らん。第一、俺は貧乏で嫁を貰うどころではない。それに、お前さんみたいなきれいな人は、俺の嫁にゃぁ似合わん」 「いいえ、あなたが何と言うても神さんが決めた事じゃで、ここに置いて貰います」 「俺ぁ困る」 言うて、いさかいしとったが、とうとう男が根負けして、二人は夫婦(みょうと)になって暮らしたと。 ところが、何日かしたら米櫃の米が無(の)うなって、その嫁さんが、 「米が無うなりましたが、どうしましょう」 というと、男は困った顔した。 「米は炭と取り替えておるんじゃが、今ぁ焼いた炭をきらしたところだ。次ぃ焼きあがるまで、まだ間がある」 「ほんなら、これを持って行って買(こ)うて来ておくれ」 言うと、嫁さんが懐(ふところ)から金(きん)の小粒(こつぶ)を出した。 「こんなもんで、米と換えてくれるんか」 何せ銭(ぜに)を持ったことのない男じゃて、不思議でならん。けど、町から来た嫁の言う事じゃ、間違いなかろう、思うて、山を下りて行ったんじゃと。 町へ出る途次(とちゅう)の丸木橋(まるきばし)を渡っているとき、男は金の小粒を一粒落とした。下の川をのぞくと、雑魚(ざこ)が寄って来て小粒をこ突(つ)いとる。 「こりゃ面白ぇ」 言うて、次の小粒も落とし、また落とてし、嫁さんから渡された小粒を、みな落としてしまった。 男が手ぶらで家に戻ったら、嫁さんが、 「あら、米はどうしました」 と聞いた。 「うん、実はお前のくれたものは、こうこうで、みんな橋の下へ落としてやった」 「まあ、なんちゅう人じゃろな。あれがありゃ何でも買えるのに」 嫁さんが呆れていると、男は、 「あんな物なら、炭焼き窯(がま)の横になんぼでもあるで、あした取って来る」 と言うたそうじゃ。 あくる日、嫁さんが連(つ)いて行ってみると、何と、炭焼き窯の横は金の山で、そこいら一面に金の塊りがゴロゴロしとる。 嫁さんはびっくりして、 「こんなにようけありゃぁ、あんたも炭焼きすることぁない。楽ぅしておくれ」 言うて、幸せに暮らしたそうじゃよ。 出雲の神さんが「あれこれあれこれ」と決めた縁でも、工合いよういく夫婦もあるんじゃそうな。 いっちこたあちこ。
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2-41『仁王様(におうさま)の稲一荷(いねいっか)』
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2011-11-13
2-41『仁王様(におうさま)の稲一荷(いねいっか)』 ―新潟県― 昔、あったてんがの、 あるところに大層強欲(たいそうごうよく)な庄屋(しょうや)があったと。 若い衆(しゅう)をさんざんにこき使って、年取(としと)り前(まえ)になるとろくな給金(きゅうきん)もくれないで、ポイと解雇(やめ)させてしまうのだと。 あるとき、この庄屋に力の強そうな若者が来たと。 「ここの家で、おらを使うとくれ」 「そうか、仕事のしそうな身体(からだ)つきだが、給金はどれほど欲しい」 「おら、銭(ぜに)なんぞいらん。とり秋(あき)になったら、稲(いね)を一荷(いっか)だけ、貰(もら)えればいい」 「ほう、そうかそうか。たった一荷でいいか。それだば今日からでもわしんとこの若い衆になれ」 「へえ、今日は何の仕事をしようかい」 「そうじゃな、田打(たう)ちでもしてもらおうか」 若者は早速田打ちを始めたと。 それが、三本鍬(さんぽんくわ)を両手に一本づつ持って、ぼっか、ぼっかと打って行く、人の何倍も働いて、仕事がどんどんはかがいくので、庄屋はたまげるやら喜ぶやら。 肥料(こやし)まきの時には、ため桶(おけ)をヒョイと持って田んぼの真ん中におき、 「さあ、なんぼでもこやしをやってくれ」 という。 この若者は、何せ、力はあるし、骨おしみもせず働くしで、やがて田植もはやばやとすんだと。 庄屋は、 「あの男が来たんで、今年の仕事のはかのいき具合はどういや、いやたまらん。これで稲一荷でいいとは、ウヒャヒャヒャ」 と、大満足だと。 ある雨降りの日、その若者が、 「お庄屋様、今日は雨降りで外仕事もならんので、おらが秋になって貰う稲一荷の荷縄(になわ)をなわして貰(もら)いたいが」 というた。庄屋は、どうせ稲一荷の縄ぐらいたいしたこともあるまいと思うて、 「ああ、なんぼでもそうせい」 というた。 そしたら、若者は一日がかりで、長くて太っとい縄を二本作ったと。 やがて獲(と)り秋になったと。 稲刈りもすんで、ハサバに干(ほ)した稲をとり込むことになった。 若者は、長くて太っとい荷縄を二本、下に延(の)べて、 「さあ、この上に稲を積もう」 というて、どんどん運び積んだと。 庄屋は、 「こんなに積んだら、だれも屋敷の庭の荷場所まで運べまいが」 というたけど、若者は、いさいかまわず、どんどん荷縄の上に積んだと。 とうとう、今年の一作の稲をみんな積んでしまったと。 そして、庄屋の見ている前で、この稲をヒョイと背負うと、苦もなく歩きはじめた。そして、 「はあて、お庄屋様、そいじゃ、約束の稲一荷もろうて行くで」 というた。 「ここ、こら、待ってくれ、それをみんな持って行かれると、家に何も残らん。それでは食うて行かれん。待ってくれ」 「何といわれても、約束は約束だで。」 庄屋は、おろおろして、 「待ってくれ、待ってくれえ」 と泣き事いうて後を追いかけたけど、若者の足があんまり早くて、ついて行けないのだと。とうとう姿を見失ってしもうたと。 次の日、山のお寺の仁王様の前に、その稲一荷が、どでんと置いてあるのが見つかったと。 村の衆は、これはきっと、仁王様が若者の姿になって、欲ばり庄屋を懲(こ)らしめるためにやったことだと、うわさしあったそうな。 いきがポ―ンとさけた。
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2-40『北風長者』
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2011-11-13
2-40『北風長者』 ―香川県― むかし、大阪の鴻(こう)の池(いけ)の長者(ちょうじゃ)と、兵庫の漁師の蛸縄(たこなわ)とりとが、四国の金毘羅道中(こんぴらどうちゅう)で親しくなったと。 あれこれ話をするうちに長者は蛸縄(たこなわ)とりにこう聞いた。 「わしの所は屋敷(やしき)が狭うて、どうもむさくるしゅうてならんわい。あなたの所は坪はどれほどありますか」 何坪あるかと屋敷の広さを聞いたのを、蛸縄とりは蛸壺(たこつぼ)のことかと感違(かんちが)いをして、 「へえ、壷(つぼ)なら、千(せん)ほど」 と答えたと。そしたら長者は、また、 「ほお、そないに広いんな。わしの所は屋根は瓦葺(かわらぶ)きじゃが、お宅は」 と聞いた。蛸縄とりは、すまして、 「胡麻(ごま)の柱(はしら)に萱(かや)の屋根(やね)、月星(つきほし)を眺める、といったところじゃろうか」 と答えたと。 長者はいよいよ驚(おど)いて、 「ほほう、五万本の柱とはえらいこっちゃ。それに、月や星を眺められるとは、またえらい風流(ふうりゅう)な造(つく)りでんなあ」 と感心しきりだと。 今度は蛸縄とりが、 「わしん家にゃ、息子があるがのう、釣り合(お)うた嫁がのうて、困っとる」 というと、長者は、 「それほどの家柄(いえがら)なら、なかなか釣(つ)り合うた者はないやろ。幸い、うちには娘がある。では、わしの娘を嫁にもろうて下さいな」 と頼んだと。 これには蛸縄とりもおどろいた。目をぱちくりしていたら、 「あとで番頭を伺わせますよって、あなたの名前を教えて下され」 という。 蛸縄とりは、こりやいかん、話がかけちごうとる、と思ったが、今さら、わしゃ貧しい漁師じゃ、ともいえん。口から出まかせに、 「わしは、北風じゃ」 と答えたと。 こうして、二人は金毘羅まいりをすませて別れたと。 鴻の池に戻った長者は、早速、 「兵庫の、北風ちゅう網元を見て来てくれ」 と番頭に命じた。 旅に出た番頭が兵庫の海の近くの町で出会った人に、 「北風さんの所は知りまへんか」 と尋ねた。すると町の人は、北風の吹き荒れる漁師町のことかと思って、 「北風のあるところは、漁師の道具なら一揃え干(ほ)してあるから、すぐにわかる」 と答えたと。 番頭は町の者でもこういうくらいだから、よほどの網元だと思って、 「これなら、わざわざ行くこともあるまい」 と鴻の池に帰って報告したと。 いよいよ嫁入りの日、 長者の娘は、嫁入り道具を荷馬車(にばしゃ)に山ほど積んで北風の家に向かった。 着いてみると、なるほど蛸壺は千ほど並べてあったが、北風の家は、胡麻粒(ごまつぶ)をとる胡麻の木の柱に、むしろを敷いただけのあばら屋で、草葺(くさぶ)きの屋根には穴が開(あ)いて、たしかに月星を眺めることの出来る家だったと。 娘は悲しくなったが、 「これも私の持って生まれたご縁でしょう」 といって、北風の家の嫁入りしたと。 北風の家は、嫁の持って来た金を元手に大きな船を買い、船主(ふなぬし)になって漁(りょう)をしたと。 それからというもの、何もかにもうまくいって、ほんとうの大分限者(おおぶげんしゃ)になったと。 そうじゃそうな、候(そうら)えばくばく。
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2-39『浜千鳥(はまちどり)女房』
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2011-11-13
2-39『浜千鳥(はまちどり)女房』 ―沖縄県― 昔、沖縄県のある海辺りに若い夫婦が住んでいたそうな。 女房は、毎日漁船(ぎょせん)から魚(さかな)を受け取って、それを市場に行って売る、夫は、家の仕事をあれこれやっておったと。 ん? 何に何に、女房と夫の仕事が逆(ぎゃく)ってか? いやいや、沖縄の女子(おなご)はよう働くのが多いんじゃ。この女房もきっとそうじゃったのだろうて。得心(とくしん)したか? よしよし。 さて、あるときのこと。市場に行った女房の帰りが、いつになく遅いのだと。心配になった夫が捜(さが)しに行ったと。 「魚が大漁で、市場での売りさばきで遅いのかなあ」 とて市場に行ってみたがいない。 「魚が少ないので遅くまで浜にいるのかなあ」 とて浜辺へ行ってみてもいない。 誰れ彼れなくつかまえては、 「女房見なかったか」 とて尋(たず)ねてみるのだが、誰れも女房を見た者はなかったと。 とぼら、とぼら歩いていたら、小っさい鳥が、干してある網にからまってもがいておった。夫は、その鳥を網からはずして逃がしてやったと。 家に戻って寝ないで待っていたが、とうとう女房は帰って来なかったと。 そうして、何日も何日も経ったと。 ある日、夫が縁側に腰かけてぼんやり外をながめていたら、見たことのない綺麗(きれい)な女が屋敷内の井戸の前に来て洗濯(せんたく)を始めたと。 「どこの女だろう」 とて思うたが、とがめもせずにそのままにさせておいたと。 そしたらその女は、ときどき来て洗濯するようになったと。 ある日、夫が外仕事から帰って来たら、家の台所でその女がご飯の支度をしていたと。 「あの、ここは俺ら家(え)の台所ですが、あなたはどこの方でございますか。どうして俺ら家の台所で働いていらっしゃるのか」 とて聞くと、女は、 「私は、あなたへのご恩返しに食事の支度をしておりました」 「ああ、そうか」 夫は、井戸を使わせてやったお礼かな、とて思うたと。 晩ご飯が済んで茶飲(ちゃの)み話をしたと。夫が、 「まだ、あなたの名前を教えてもらっていませんが」 とて言うと、女は、 「私は、千鳥(ちどり)といいます。だけど、この千鳥という名前は誰にも教えないで下さい。」 とて言うたと。 千鳥という女は、毎日やって来ては、食事、洗濯、掃除と家の仕事をこまごま、まめまめやってくれる。夫はありがたがったと。 ある時、夫の友達が家へ用事で訪ねて来た。すると、女房が行方知れずで一人者だったはずなのに、綺麗な女がいる。 「ありゃ、こりゃどういうことだ」 とて、夫に尋ねた。 「いや、なに、この女(ひと)がいろいろ世話をして下さるので、助かっているところだ」 「こんな綺麗な女がいるとは、お前(め)えもすみに置けないな。名前は何という。紹介しろよ」 「いや、なに、千鳥という名前だ」 夫は、つい言うてしまったと。 それを聞いた千鳥という女は、悲しい顔をしてうつむいたまま、夫の友達が何を話しかけても物を言わんかったと。 友達は、けげんな顔して帰った。すると、千鳥という女は、 「私の名前が千鳥だとあなた以外の人に知られたからには、もうここにいることは出来ません。あれだけ注意して下さいとお願いしていましたのに、残念でなりません。実は私は、浜で網にからまっているところを助けていただいた浜千鳥です」 というと、見る見る浜千鳥になって、ピ―ッと鳴いて飛んで行ったと。 おしまい。
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2-38『旅人と虎と狐』
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2011-11-13
2-38『旅人と虎と狐』 ―山形県― むかしあったけど。 ある夏の日盛(ひざか)りに、旅人(たびびと)が道をとぼとぼ歩いて行くと、檻(おり)に入った虎(とら)がいたっけど。 知らんぷりして通り過ぎようとしたら、哀(あわ)れっぽい声で言うんだと。 「どうかおれを、この檻から出しておくやいな」 旅人は、 「お前をこの檻から出したら、お前からおれが食われるんべな」 と言うと、虎は、 「決して食ったりしねぇから」 と言うので、虎の言葉を信用して檻の錠をはずしてやったと。 そうすっど腹のへってる虎は檻から出ると、食いたくてたまらねくなってしまったと。 旅人は考えて、 「ほんじゃこうすべ。この道歩いて行きながら、出合った三人の人から話聞いて、三人とも同じ考えだば、おれぁお前に食われても仕方ないべ」 と言って歩き出したと。 最初に会ったのは牛(べこ)だったと。牛に話して返事を待ってたら、牛は、 「おれたちの乳をさんざんしぼって飲んだ上に、肉まで食う人間なんざぁ、虎に食われた方がええ」 と言うたと。虎は勢いづいて旅人に飛びかかるかっこうになったと。 「虎さん、虎さん、まだ二人残ってるもの、忘れんねでおくやい」 と言うて、また少し歩いたら、汗(あせ)だくになって、道端の大っきな木(き)の下(した)で休(やす)んだと。そこで大木(たいぼく)に聞いたと。そしたら大木は、 「おれの木陰(こかげ)に休んだ上に、伐(き)り倒(たお)して薪木(たきぎ)にしてしまう人間なんざ、遠慮すっことないから、食ってしまえ」 と言うたと。旅人は、 「まだ一人残ってんの、忘れねでおくやい」 と言うて、また歩いて行ったら、狐に出会ったと。事の次第を話して返事を聞くと、狐は考えていたっけぁ。 「何のことだか、さっぱり分んね。そもそも事の始めから、おれに見せてけろ」 と言うから、旅人は虎と狐をつれて、またその道を引返したと。 そうすっど虎はまた檻の中へ戻ってしまったと。そうして錠をされてしまったと。 「このままいれば何もないんだべ。こんでよし・・・と。旅の方(かた)よ、先を急ぐべはぁ」と狐が言うので、旅人はやっと安心して、道を歩いて行ったと。 とうびん。
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2-37『鬼の岩屋(いわや)』
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2011-11-13
2-37『鬼の岩屋(いわや)』 ―香川県― 昔、あるところに大けな岩屋(いわや)があって、鬼(おに)が棲(す)んででおったと。 鬼は、手下(てした)に大勢の山賊(さんぞく)どもを使っておったと。山賊どもは盗人だから、夜になると山を下りて町へ出て来る。そしていろんな物を盗んで来て、岩屋で食べたり呑(の)んだりしょったそうな。 あるとき、鬼が手下の山賊に向かって、 「おなごのきれいなのを一人連れて来い」 と、命令したそうな。 手下どもが町へ出て、きれいなおなごを探したら、呉服屋(ごふくや)に若いきれいな嫁がおったそうな。 そこで手下は、銭をたくさん持って町の呉服屋へ行ったと。 そして帯(おび)やら着物やら、たくさん呉(く)れ言うて銭袋(ぜにぶくろ)をジャンガと置いてみせたと。 呉服屋の主人は、上客(じょうきゃく)が来たと思うて、喜んで酒を出してもてなしたと。 手下は主人と一緒に酒を呑んで、主人をしっかり酔(よ)わしてしもうたと。 主人は酔ってグウグウ眠ってしもうたら、手下は、帯とか着物を入れとる箱をあけて、その中へ呉服屋の嫁を押しこめたそうな。そしてその箱をかついで山の岩屋へ連れて行ったと。 鬼はたいそう気に入って、とうとう、鬼の嫁さんにしたそうな。 一方、町の呉服屋では、主人が目をさますと嫁がおらん。あちら、こちらを探しまわったが、どこにも見当らん。 「こりゃ、昨日(きのう)来た奴に盗(と)られたんじゃ。そうにちがいない。こりゃぁ大変だあ」 いうて、何もかもほっといて嫁探しに出掛けたそうな。 一年経ち、二年経ち、三年経ったある日、呉服屋が宿へ泊ったら、その手下がその宿に泊り合わせたそうな。 合い部屋で一緒に酒を呑んでいたら、手下が、 「世の中には面白い事もあるもんじゃ。わしが鬼につかまえられて、手下になって山賊になっとったときのことじゃが、ある町の呉服屋の家内をつかまえて来て、鬼の女房にしたことがあるわ」 と言うたそうな。 それを聞いた呉服屋の主人は、 「こりゃ、わしの嫁のことにちがいない」 と思うて、上手(じょうず)に鬼の岩屋の場所を聞き出したと。 そして山の鬼に岩屋へ行ったそうな。手下が、 「鬼は、夜は外(そと)へ荒しに行くけに、昼は寝よる」 と言うとったのを思い出して、夜になるのを待って岩屋へ忍び込んだと。 そしたら、我が嫁が一人で、しょんぼり座っておったと。 「訪ねて来たぞ」 というたら、嫁は目をまんまるにして、 「よう訪ねて来ておくれた」 いうて、泣いて喜んだそうな。 鬼が戻って来るかも知れんので、 「早う、早う」 いうて、主人を階段の下へ隠したそうな。 やがて夜明け頃になって鬼が戻って来て、 「人くさい、人くさい」 というのだと。女房は、 「そんなら、わたしのお腹(なか)に赤児が宿ったんじゃろ」 いうて、にっこり微笑んでみせたと。鬼は、 「そうか、それはめでたい。いやめでたい」 いうて喜んで喜んで、酒をあびるほど呑んでグワァラ、グワ―ラ寝てしもうたと。 鬼がすっかり眠ったのを見とどけた嫁は階段の下に隠れている主人を呼び寄せたと。 主人は、何でも切れないものはないという鬼の刀を持って来て、鬼の首をスポ―ンと切りはねたと。 主人と若いきれいな嫁は、鬼が貯(た)め込(こ)んだ宝物を持って、無事に家に戻ったと。 そして以前にもまして大きな呉服屋を営(いとな)んで、子宝にも恵まれて末長(すえなが)く幸せに暮らしたそうな。 そうじゃそうな、候(そうら)えばくばく。
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2-36『ねじ金と妹とおっ母さん』
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2011-11-13
2-36『ねじ金と妹とおっ母さん』 ―高知県― むかし、高知県須崎市(すさきし)というところに、ねじ金(きん)という、とてつもない力持ちがおったそうな。 あるとき、村の相撲大会(すもうたいかい)があったが、これに、どこの者やら、大っきな男が飛び入りしたと。 背丈(せたけ)は六尺あまり、目方(めかた)が五十貫ほどもある。今の言い方になおしたら、さしずめ、1メ―トル八〇センチに体重が約二〇〇キログラムもある大男だ。 それがめっぽう強うて、誰も勝てん。まるっきり勝負にならん。 「これじゃあ面白うない。ひとつ、ねじ金に出てもうおう」 と、村の衆が相談に行ったと。 そしたら、ねじ金は、 「おらは村の衆が相手じゃあ、はなっから勝負にならんけ遠慮しちょったけんど、そんなんがおるんなら喜んでおらがとっちゃろう」というて、裏山で竹をへし折って来て、手でしごいて、それをたすきにかけて行ったと。 大会の場では、ねじ金が来たいうのでいっぺんに盛り上がった。 「ねじ金、負けんなあ」 「大男も、負けんなあ」 と、口々に大騒ぎになったと。 さて、いざ相撲がはじまると、何のこたあない。ねじ金は五〇貫もあるその大男を軽々と頭の上にさしあげたと。ねじ金が、 「勝負はついた」 と、頭の上の大男にいうたら、大男は、 「まだまだ」 と言うたけ、いながら土俵へぶちつけたら、 「きゅん」 というて、大男は伸びてしもうたと。 このねじ金に妹がいて、その妹もこじゃんと力のある人で、ちょっと嫁さんにもらいてがなかったと。 けんど、世の中には物好きな人もおるもんで、この妹も嫁さんにもらわれて行ったそうな。 あるとき、嫁ぎ先の旦那が風呂に入りよっと。 風呂というても今のように屋根はついておらん。家の外へ釜をすえて、釜の下から火を焚いていたものであったが、そしたら、俄雨(にわかあめ)が降って来(き)た。そこで旦那が、 「早よう傘を持ってこい」 と呼んだけんど、妹はちょうどそのとき裏で炊事をしょったけ、よく聞こえんかった。 けど、呼ばれたらしいとは分かったので外へ出てみたら雨が降りよったもんじゃけ、あわてて旦那の入った釜ごと持ち上げて、家の軒下へ運び、置いたと。 ほいたら旦那がびっくりしょって、 「我が嫁ながらおそろし」 というて、ひまをやったと。 妹は仕方なく家へ戻ったところが、おっ母さんは、ちょうどカマドでオジヤを炊いているところだった。出戻った訳を聞いて、 「女はそういう力を見せちゃいかんというとったろうが、なぜ、力を見せた」 いうて怒ったと。 怒ったところが、おっ母さんも思わず知らず、傍(そば)にあった鉄の火箸を、ちぎりちぎり、クドに放りこんでおったと。 むかしまっこう猿まっこう、 猿のつべは ぎんがりこ。
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2-35『塩吹(しおふ)き臼(うす)』
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2011-11-13
2-35『塩吹(しおふ)き臼(うす)』 ―山形県― むかし、あったけど。 むかしあるところに爺と婆がおったと。 爺と婆には子供がなかったと。それで、村の鎮守様(ちんじゅさま)へ、 「子供を授けてくれろ」 と、お願いしていたら、ある日、鎮守様のお堂の前に捨て子が置かれてあったと。爺と婆は 「神様のお授け男子(やろっこ)だ」 と喜んで、その男子を拾うて育てたと。 男子は育って、やがて七(なな)つになったと。魚獲(と)りが好きで、毎日毎日、釣竿担いて浜辺通いだと。 ある日、男子が浜辺へ行ったら、一人の白いヒゲを生(は)やした老人に出会ったと。老人は、 「今日、お前が最初に釣った魚を向こうの岩のところで火に炙(あぶ)ってみよ。岩の中には編み笠を被(かぶ)った親指ほどの子供が千人いて、宝物を持っている。その魚を欲しがるから、そしたら穴の一番奥の宝と取り替えるがよい」というたと。 男子が釣り糸をたれたら、大っきな鯛(たい)が釣れたと。 老人に教わった岩の所へ行き、海辺から寄り木を集めて来て火を焚いて、串差しにした鯛を炙ったと。鯛がジクジクしてきたらその匂いを嗅ぎつけて、岩の割れ目から編笠を被った親指ほどの子供たちがゾロゾロ出て来て、千人みな集まったと。 「いい匂いだなあ」 「うんまそうだなあ」 「食いてぇなあ」 と、口々にいうて鯛を見上げている。男子は、 「一番奥の宝となら取り替えてもいいよ」 というたら、親指ほどの子供が、 「一番奥にあるのはだめだけど・・・」 というて、持って来たのが、桃色や赤色や青い色したサンゴだと。 「こんなのいらん。一番奥のがいい」 「一番奥のはあげられん」 というて、次に持って来たのが、金の粒がぎっしり入った皮袋だと。 「こんなのいらん、一番奥のでないとだめ」 そういうとるうちに火がどんどん燃えて、ますます鯛のいい香りがしてきたと。 そしたら、千人の親指ほどの子供たちは皆(みんな)で相談しおったが、とうとう、一番奥の宝物を多勢して運んで来たと。そして、 「これは二つとない宝の石臼だ。欲しい物をいいながら、右に三遍回せば何でも出てくる。止めるときには左に回して、「止まれ」といえばいい」 と、教えてくれたと。 男子は、宝の石臼を転がし転がし家へ帰ったと。爺と婆に話したら、 「ンでは早速試してみるか」 「ンだな。まず、晩餉(ばんげ)のまま出してみるか」 となって、婆が、 「米、出はれぇ」 というて右に三遍回したら、米がザクッと山ほど出たと。 「ありゃほんとだぁ。ンでは、止まれぇ」 というて、左に回したら、米の出るのが止まったと。 「味噌とおかず買う銭コ、出はれぇ」 とやったら、小判が山ほど出たと。 「はてはて、これは良ぇ物をもろて来た。鎮守様のお授けだ」 というて、爺と婆と男子は大喜びしたと。 あれも出し、これも出し、いっぺんに福々長者となって、村の衆を招(よ)ばっておふるまいしたと。そして、長者になった訳を語って聞かせたと。 そしたら、その晩、泥棒が入って、宝の石臼と、おふるまいの残りの赤マンマとボタモチを盗んで海へ逃げたと。 泥棒は舟を漕いで漕いで漕いだら、腹が減ったと。海の上で、盗んで来た赤マンマとボタモチをしこたま食べたら、塩っぱいものが欲しくなったと。それで、試すにちょうどいいと思って、 「塩、出はれ」 というて、宝の石臼をぐるぐる回したと。 そしたら出るは出るは。けど、泥棒の止め方を知らない。 「もういい、出るなぁ、止まれぇ」 泣きごというて、塩を手ですくっては投げすくっては投げしたけど塩の出るのに追いつかない。塩が舟の上に積りに積って、とうとう海の中へ沈んで行ったと。 海の水がしょっぱいのは、昔にこういうことがあって、今でもその宝の石臼が、海の底でゴロゴロ回っているからなんだと。
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2-34『留やんとしばてん』
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2011-11-13
2-34『留やんとしばてん』 ―高知県― 大正の頃、土佐の羽根村(はねむら)に留(とめ)やんという大工がおった。 あるとき、嫁にやった娘に子供が出来そうな、いうき、朝まだ暗いうちに隣り村へ出かけたと。 すると、途次(とちゅう)で、 「オンチャン、オンチャン」 と、誰やら呼ぶ声がする。ふり向くと、二メ―トルぐらい先に、小坊主がニコニコ笑いながら立っておる。留やんは、 「おんしゃあ、なんの用なら」 いうと、小坊主が、 「オンチャン、すもうとろよ」 いう。留やんはバカにするなと、舌打ちしょったが、 「オンチャン、とろう。すもうとろうよ」 と、あんまりしつこうに言うき、とうとう相手になってとり始めたそうな。 「ヨイショ、ヨイショ」 「ほりゃ、ほりゃ、こりゃどうじゃ」 留やんは、力いっぱい小坊主を投げつけた。 けんど、なんぼ投げられても小坊主は平気の平左。留やんはカッカして、力いっぱい小坊主をねじつけて、泥の中へ押しつけ、 「どうじゃ、参ったか」 いうと、うしろの方から、 「オンチャン、ここぜよ」 いう声がするき、ふりむくと、また小坊主が涼しい顔でニコニコ笑いよる。 もう今度こそハラワタが煮えくりかえりそうになって、今しも飛びかかって行こうとすると、 「こらこら、おまん、そこでいったい何をしゅうぜよ」 こういうて、寄って来るもんがあるそうな。 「あしゃ、この小坊主をやっつけゆうけんど、どういても勝てなあよ」 留やんが悔しそうにこういうと、その男のひとは、 「おまん、自分をみてみいや、ひとりぜよ。誰っちゃ、おりゃせんに。そりゃ石ぜよ」 いわれて留やんは、ハッと気がついたと。 ようよう見てみると、ひとりでタンボの中を転びまわったり、石をけとばしたりして、泥まみれ、血まみれになっておったそうな。 「チャ、あしゃ(俺)、今の今まで、確かに小坊主と相撲をとりよったに、しょう(正)不思議なことじゃよ」 「おまん、そりゃ、しばてんに化かされちょったろう」 「まっこと、ありゃ、しばてんじゃったか」 と、留やんは恐れいったそうな。 昔まっこう猿まっこう、 猿のつべはぎんがりこ。
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2-33『観音(かんのん)さま二つ』
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2011-11-13
2-33『観音(かんのん)さま二つ』 ―島根県― むかし、ある山奥に山姥(やまんば)が棲(す)んでおったと。 山のふもとの村人が、山へ入って柴刈りや山菜採(さんさいと)りをしていると、どこからともなく、「ホホヤ―、ホホヤ―」と、さやごの泣く声がするんだと。 「はて、こんなところで赤ン坊の声が」 と不思議に思って、泣き声の方へ近寄って行くと、突然、山姥が出て来て、その人をとって食ってしまう。 さやごの泣き声は、山姥の誘いであったと。 こんなことが度重なって、誰もその山へ入る人はなくなったと。 あるとき、村で一番の力持ちの男が、 「よっし、おらが山姥を退治してくれる」 というて、その山へ入って行ったと。 いくがいくがいくと、「ホホヤ―、ホホヤ―」と、さやごの泣く声が聞えて来たと。 近寄って行くと、泣き声がハタと止(や)んで、一人の姥(うば)が出て来たと。男は、 <ははぁ、こいつだな> と思うたが、何も知らない顔をして姥に尋ねた。 「婆さん、なんでこげな所にござる」 「わしゃあ、道に迷うて困っちょるわな」 「そら難儀だったな、おらに背負(おぶ)わさっしゃれ、里へ連れて行ってやるけに」 「そんなら、わしが降(お)ろしてくれというたときに降ろさっしゃれ」 「降ろしてくれと言やぁ、いつでも降ろすけに」 「そうか、そうか」 姥は喜んで男に背負われたと。男は姥を帯でかたく背負って、肩腰しにたれた両手をギュッと握って里へ下ったと。 山の出口に差しかかったら、姥が、 「ここでまあ、降ろしてござっしゃえ」 というた。男は、 <ふん、降ろしゃあ、このおらをとって食おうっちゅうこんたんじゃろ。その手に乗るか> と思うて、 「まだまだ里へは遠いから」 というた。 「なら、わしの手を離(はな)さっしゃれ、痛うてどうにもならん」 「がまんじゃ。そのうち離すけ」 そういいながら、我が家まで背負って来たと。 家の中に入ると、まわりの戸や窓をしっかり閉めて、土間に大火を焚いた。 そして、火がどんどろ、どんどろ燃えているなかに姥を投げ込んだと。姥は、 「あちちちい」 というて、逃がれようとしたと。 「おのれ、いままで人をたくさんとって食うた山姥め、逃がすものか」 というて、家じゅう追いまわしていたら、どこへ散ったやら舞ったやら、見えなくなったと。 「おのれ、あの山姥め、どけえ行ったじゃろか」 というて家じゅう探しまわると、仏壇に観音さまが二つ坐ってござった。 「こりゃおかしなことだ。ここにや観音さまが一つしか無かったに二つある。どれが本当の観音さまやら」 二つの観音さまは大きさも顔も姿も寸分(すんぶん)違ったところがないのだと。 「はて、困った。ひとつは山姥が化けちょるにちがいはないが」 と思案しておったが、ハタと手を叩いて、 「おう、そうじゃ。ここの元からの観音さまは、小豆飯(あずきめし)を供えるといつもにっこり笑うて右の手をささっしゃるけに、小豆飯を供えよう」 というて、にわかに小豆飯をこさえて供えたと。 そしたら、一つの観音さまが、にっこり笑うて手をさしのべたと。 「こいつが山姥だ」 いうて、その手をつかまえて仏壇から引きずり落としたと。 観音さまは「痛てえ」というて、元の山姥の姿になったと。 「おのれ山姥、お前えにかみ殺された人たちの仇討(あだう)ちだ」 いうて、なぐるけるしたと。 山姥は、とうとう死んでしもうたと。 それからは山姥の災(わざわい)もなくなって、誰もが安心して山へ行けるようになったと。 むかし こっぽり。
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