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두자춘(일한번역문)
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아우님이 이토록 활약하는 줄 몰랐습니다. 옹근 2년이나 사이트들에서 잠적하다가 돌아오니 아우님이 보이시네. 반갑수다. 이제 우리 만나면 그간 회포를 잘 풀어 봄이 어떠하리오...
곧 《간도빨치산의 노래》전문을 싣도록 하겠습니다. 이 글은 연변문학 2013년 제2기와 제3기에 실렸던 글입니다. 연변문학 2기에 조선글로 된 원문이 실려있습니다.
좋은 글 잘 읽었습니다. 《간도빨치산의 노래》전문은 어디에서 볼수 있습니까? 읽어보고 싶은데요.그때 상황도 더 료해해보고...
참 의미심장한 이야기 입니다.
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3-52『塩(しょ)っぱい爺(じ)さま』
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2011-11-22
3-52『塩(しょ)っぱい爺(じ)さま』 ―山形県― 昔、あるところに爺(じ)さまがあったと。 秋祭がきて、町(まち)に市(いち)が立った。爺さま買い物に出かけたと。 町ではピーヒャウ、ドンドンと笛太鼓が鳴り響き、浴衣(ゆかた)に下駄(げた)履(ば)きの人達が晴れやかな顔して、あの店、この店をひやかしている。賑やかだと。 爺さまも、あれを見、ここをのぞきして楽しんでいたら、はや暮(く)れ方(がた)になった。 「早よう帰らにゃ。婆さまが心配する」 いうて、魚と菓子を買うて帰ったと。 ススキのいっぱい生(は)えている野っ原にさしかかったら、狐が一匹、ピョンコ、ピョンコ跳(は)ねて戯(たわむ)れていた。 爺さま、一ちょ捕(と)っ掴(つか)まえくれっか、と、風下(かざしも)から腹這いになって、こそっと近づいた。 尾っぽを握(にぎ)り捕(と)るべと手を延(の)べたら、狐はひょいと跳ねて、爺さまの腕一本分遠ざかった。爺さま、ひと這いして、また掴まえるべと、狐はひょいと逃げる。またひと這いして手を延べたら、またもやひょいと逃げる。ようやく、さっと掴まえたと思ったら、ススキの花ばかり握っていたと。 狐の姿も見失って、ふと我にかえった爺さま、あたりを見まわしたら、いつの間にか野っ原の中程(なかほど)まで来ていたと。あわてて道へ戻ったら、道端に置いといた市(いち)で買うてきた魚と菓子が無くなっていた。 「ありゃぁ、狐に盗(と)られた」 爺さま、まんまるい大っきなお月さまに照らされて、とぼら、とぼら帰ったと。 爺さま、婆さまにひやかされたと。 次の日、爺さま、また、市に買い物に行ったと。家を出るとき、 「いっちょ、仇(あだ)討(う)ってやらねば気が澄(す)まねぇ」 とて、ひと握り、塩を握って来た。 野っ原に分け入(い)って、昼寝をしているふりをして待ったと。 すると、やっぱり狐が出てきて、 「こりァ、こりァ。昨日(きのう)おれからだまされた爺さまでねぇか。気持ちよさげに昼寝をしてござる。よろし、いっちょ小馬鹿にしてやんべ」 とて、葉っぱ頭にのせて、くるっと回って、爺さまの孫童(まごわらし)に化(ば)けたと。 爺さま、薄目(うすめ)あけて見ていたら、その孫童、ちょこちょことかたわらへ近寄ってきた。 爺さま、さっと手を延べて、今度ァ、その孫童の手を掴んだ。 「さぁさ、爺と寝るべ、寝るべ」 いうて抱(かか)えて、ドタバタする孫童の口へ、塩を無理やり突っ込んでやったと。孫童は、 「爺さま、爺さま、何するや」 と叫んで、ススキの奥藪(おくやぶ)へ逃げて行ったと。 その日の晩方(ばんがた)、爺さまが市(いち)から買うた魚と菓子を持って野っ原に差しかかったら、ススキの藪奥(やぶおく)から、狐が、 「やぁや、塩っぱい爺さま行く、塩っぱい爺さま行く」 とて、弥次(やじ)ったと。 爺さま、まんまるい大っきなお月さまに照らされて、ぴょんとひと跳ねしてやったと。 どんぺからっこねっけど。
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3-51『雪姫(ゆきひめ)』
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2011-11-22
3-51『雪姫(ゆきひめ)』 ―岩手県― 昔、あるところに東長者(ひがしちょうじゃ)と西長者(にしちょうじゃ)とがあった。 東長者には使用人が三百六十五人もいた。 西風の強い日があれば使用人は田や畑(はた)に出ることが出来ん。貪欲な東長者はみんなが一日(いちにち)休めば、一人がまるまる一年間休んだのと同じだ言うて、誰彼(だれかれ)見境(みさかい)なく当り散らし、天(てん)をも罵(ののし)っていたと。 ある年のこと。この東長者の屋敷から火が出て、屋敷も倉も何もかも焼けてしまった。東長者も焼け死んだと。 使用人も村人たちも遠巻きに見るだけで、誰も助け出そうとしなかった。東長者の奥方は髪をかきむしって怒(いか)り狂(くる)った。 嘆(なげ)き、恨(うら)み、罵(ののし)っているうちに、眼(め)が赤く据(す)わってきて、口(くち)は耳(みみ)の付根(つけね)まで引裂(ひきさ)け、額(ひたい)には二本の角(つの)が生(は)えて、ついにはおっそろしげな蛇の姿になったと。 そして、アレアレと言うて立(た)ち騒(さわ)ぐ人を、一人喰(く)わえ、二人喰わえして、大池(おおいけ)にザンブと潜(もぐ)って消えたと。 使用人も村人達も、蛇体(じゃたい)となった東長者の奥方を恐れて、屋敷跡と大池には誰も近づかなくなった。 そしたらある夜(よる)、大池の蛇体の声を、村中の者が聴いた。 「一年に一人ずつ 娘を喰わせろー そむいたら ここいらじゅう 泥(どろ)の海にしてしまうぞう」 それからというもの、その村では一年に一人ずつ、娘を大池の蛇体に供(そな)えてきたと。クジ引きで決めていたと。 何年か経って、西長者がクジを引き当てた。 西長者には美しい一人娘があって、目に入れても痛くない程可愛がっておった。 大池の蛇体といっても、元(もと)は東長者の奥方のなれのはて。強欲(ごうよく)の、身から出た錆ではないか。そんな変化(へんげ)に可愛いい一人娘を生贄(いけにえ)になんぞしてたまるか。かといって村中(むらじゅう)泥(どろ)の海(うみ)にされるわけにもいかない。 西長者は、金に糸目(いとめ)はつけないと言うて、娘の身替わりをさがすことにしたと。 使者(つかい)を他村(たそん)の方々(ほうぼう)へ出した。が、見つかるものではない。 そのうち、一人の使者が、山の中を歩いていて日が暮れかかった。 困ったなあ、と思いながらなをも歩いていると、谷の向こうにペカーっと灯(あかり)が点(とも)った。 ようやくたどり着いて、家に入れてもらったと。 その家には母と娘が二人っきりで住んでいた。 使者がよく見ると、娘の美しいこと美しいこと。世に類(たぐ)いないほどであったと。娘の名前は雪姫(ゆきひめ)というた。 使者は、この娘なら主人の愛娘(まなむすめ)の身代りにふさわしいと思い、母と雪姫に己(おのれ)の役目(やくめ)を打ちあけたと。 「俺はそういう人買いだ。この娘御(むすめご)を売ってくれぬか。代価(だいか)は黄金(おうごん)を山に積もう」 雪姫は西長者の事情と使者の役目を聴いて 「はい、私でよければ身替わりになりましょう」 と言うた。母は血相を変えて、 「なにを言います。とんでもない」 というた。雪姫は、 「しばらくの間の別れだから、決して心配しないで。私は用が済んだらすぐ帰って来ますから」 というて、次の朝、使者と一緒に家を出たと。 西長者は雪姫を見るなり、お前さまのおかげで一人娘の命が助かる、と言うて、ありがたがったと。 着いた次の朝、村人たちに見送られた雪姫は西長者と連れだって大池のほとりに立った。 蛇体は雪姫の影が見ずに映(さ)すのを見て、鎌首(かまくび)を持ち上げるように水の上に姿を現わした。まっ赤(か)な眼(め)で雪姫を値踏(ねぶ)みするようににらみ、耳の付根まで引裂けた口をカッと開らいて、今にもひと呑(の)みにしようとした。 そのとき、雪姫は掌(て)を前に延(の)べて、 「これ、変化の者、しばらくお待ちなさい」 と言うて、何やらお経のような文句を誦(よ)んだ。 すると、恐ろしげな蛇体のまっ赤な眼から涙がこぼれた。額に生えた二本の角(つの)がポロリポロリと抜け落ち、引裂けた口が元に縮まってきて、鱗(うろこ)も消えた。蛇体は元の東長者の奥方の姿に還(かえ)ったと。雪姫の前に伏して、 「あなたさまのおかげで、怨念(おんねん)で凝(こ)り固(かた)まった醜(みにく)い心が溶け、ようやく人の心と姿を取り戻すことが出来ました」 と、涙を流してお礼を言うた。 村は元どうりの暮らし易(やす)い村になった。 雪姫は西長者から沢山の黄金(おうごん)をもらい、蛇体であった東長者の奥方からも、お礼だと言って、宝の珠(たま)をもらって、山の中の母親の元へ帰ってきたと。 そしたら母はいないで、後(うしろ)の山の方で、 雪姫恋しいじゃ ホウイ 雪姫恋しいじゃ ホウイ と叫ぶ声がした。 雪姫が声をたよりに後の山へ行ってみると、母は娘恋しさに目を泣き潰(つぶ)して盲目となって鳥追(とりおい)をしていた。 雪姫はもらってきた宝の珠で潰れた母の目をコスルと眼があいた。 母と雪姫は抱きあって喜び家に帰ったと。 西長者からもらった黄金でふたりは一生(いっしょう)安楽(あんらく)に暮らしたと。 まんまんさけた。
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3-50『ネズミの金干(ほ)し』
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2011-11-22
3-50『ネズミの金干(ほ)し』 ―山形県― 昔、あるところに爺さがおったと。 爺さ、山に焼畑(やきはた)に行ったと。 四隅(しすみ)を畝(うね)い、木組(きぐみ)をして焼き飯を供(そな)え、山の神にお祈りをしてから、草に火をつけた。 そしたら、ネズミが穴からぞろぞろ、ぞろぞろ出てきた。その一匹一匹が一枚ずつ小判を喰わえていて、金干したと。 爺さ、煙管(きせる)できざみ煙草(たばこ)をのみながら、ネズミの金干しの様子を見ていたと。 ネズミは小判いっぴ干すと、しまいに人形立てて、その人形に、 「雨降ってきたら教えろよ」 て、いうて、穴にもどっていったと。 爺さ、こんなこともあるものかと、不思議がっていたが、ネズミどもがいなくなると、その小判をみんな持って家に帰ったと。 婆さに、これ見ろや、というて、ふところから小判をとり出して、ザン、ザランとまき散らした。 「あれや、爺さ、こんなに一杯の黄金(こがね)、どうしたや」 「なに、あれだや。今日な、焼畑に山さ行ったら、穴からネズミが小判一枚ずつ喰わえてきて、火の熱で金干したから、もろうて来たや」 「あれぇ、そだったかい。それはよかった」 と、こう話して聞かせていたのを、ザン、ザランという黄金の音を聞きつけて来た隣の婆、聴耳(ききみみ)立てていた。 「これはいいことを聞いた。俺家(おらえ)の爺もやんねばなんね」 と、ほくそ笑(え)んで、早速、爺に、これこれこうと話したと。 次の日隣の爺、山さ行って焼畑したと。 そしたら、やっぱりネズミ穴からネズミが小判一枚ずつ喰わえて、ぞろぞろ、ぞろぞろ出てきた。して、火熱(ひねつ)で小判を干したと。 人形立てて、 「雨ぁ降って来たら、教えろ」 というて、穴にもどっていったと。 隣の爺、これぁしめたもんだ、と思ったら、小便したくなった。小便したら、金干ししてある小判と人形にひっかかった。人形が、 「雨よ、雨よ」 と声を出したら、ネズミどもがわらわら出てきて、すぐにしまってしまったと。 隣の爺、小判一枚も盗(と)ってこれなくて家に戻ったら、婆、 「この腐れ爺」 というて、爺のこと火吹き竹でぶったたいたと。 とーぴったり。
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3-49『こぶとり爺(じい)さん』
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2011-11-22
3-49『こぶとり爺(じい)さん』 ―岩手県上閉伊郡― 昔、むかし、あるところに額(ひたい)に拳(こぶし)ほどの瘤(こぶ)のある爺さまが二人あったと。 二人の爺さまは瘤がみっともないから取ってもらおうと思い、山奥のお宮に詣(まい)って、神様に願(がん)かけの為に夜(よる)ごもりをしていたと。 あるとき、真夜中ごろになって、遠くの方から笛や太鼓のはやしの音が聞こえてきた。 こんな夜の夜中に、何事だろうと思っていたら、その音が段々に近ずいて、鳥居のところまでやってきている。 とれれ とれれ とひゃら とひゃら すととん すととん と、天狗どもははやしている。が、はやしばかりで舞い手が居ない。 「お前、舞え」 「いや、お前が舞え」 と、互いに舞いをすすめるが、どうもこの中には舞いの出来るものが居ないらしい。 一人の天狗がいまいましそうに「ちぇ」といって片わらを見たとたんに、隠れていた二人の爺さまが見つかったと。 「何だ、人間の爺どもがいたぞ。お前たち舞いを舞ってくれ」 といって、手前の爺さまの袖を引っ張って、みんなの前へ突き出したと。 その爺さま、はじめは怖くてふるえていたが、興(きょう)に乗って踊り出した。 くるみはぱっぱ ぱあくずく おさなきゃぁつの おっかっかぁの ちゃるるう すってんがあ と、三度くり返して歌いながら、舞ったと。 天狗どもは大層喜んで、手を叩いて誉めたと。 「せかっくの好(よ)い舞だが、どうも、お前の額の瘤が目ざわりだ。面の造りがよく見えないな。どれ、その瘤をとってやろう」 といいながら、天狗は爺さまの額の瘤を取ってしまったと。 爺さまは、急に頭が軽くなって、大喜びで引きさがった。 その次に、もう一人の爺さまが、丸座(まるざ)の真ん中に引き出された。 「こんどはお前だ。楽しく舞えよ」 といって、天狗どもは、 とれれ とれれ とひゃら とひゃら すととん すととん と、はやしはじめた。が、この爺さま、天狗があまりに怖くて、身体(からだ)がふるえて、膝(ひざ)がガクガクだったと。 それでもせきたてられて、仕方なく、 ふるきり ふるきり ふるえんざあ こおさま(小雨)の降るときは いかにさみしや かららんとも すってんがあ と、歌いながら踊った。けれども、声がふるえて、歯もガチガチいうて合うてないし、おまけに調子も低かった。 陽気好きの天狗どもはいやな顔をして、 「もう少し、元気よくやってくれ」 というた。 爺さまは、そう言われるといよいよ縮み上がって、とうとう立っていられなくなった。尻餅(しりもち)ついて、泣き出したと。天狗どもは、 「臆病にもほどがある。せっかくの面白い舞いも、泣きつぶされてしまった。お前のような爺には、二度と会いたくない。さあ、この瘤でも持って帰れ」 いうて、先(さっき)、もう一人の爺さまから取った瘤を、この爺さまの鼻の上に投げつけた。 爺さま、びっくりして鼻の上をこすってみると、額にあった瘤に加えてもうひとつ鼻に瘤が出来てあった。 この爺さま、二目と見られない顔になったと。 どんとはらい。
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3-48『郭公鳥(かっこうどり)の由来(ゆらい)』
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2011-11-22
3-48『郭公鳥(かっこうどり)の由来(ゆらい)』 ―埼玉県― むかし、むかし、あるところにおっ母(か)さんと息子とが暮らしてあった。 息子は親子不幸者であったと。 春になったので、おっ母さんが田んぼの代掻(しろかき)に行くぞ、といえば、息子は、 「俺ァ今日はいそがしい」 というて、川へ春魚(はるざかな)獲(と)りに行き、 五月(さつき)になったので、おっ母さんが田植えに行くぞ、といえば、息子は、 「俺ァ今日はいそがしい」 というて、山へ行って春鳥(はるどり)追(ぼ)っかけ、日がな一日遊んで、ちいっともおっ母さんを助けないのだと。 おっ母さん、ひと仕事も、ふた仕事も終えて、ほうと息ついたら、背中がかゆうてかゆうてたまらんようになった。息子に、 「背中掻(か)いてくれ、かゆ、かゆ、あーかゆい」 と言うて背中向けたら、息子は、 「俺ァ今、手がはなせない」 というて、野兎を獲る仕掛を作っているのだと。 おっ母さんは仕方なく、庭の松の木の瘤(こぶ)のところへ行って、背中をこすりつけたと。 そしたら背中が破れて、それがもとで死んでしもうた。 息子は、おっ母さんが死んではじめて、 「あのとき俺が掻いてやっていたら、おっ母さんの背中も破れなかったし、死にもしなかったなあ」 というて、親不孝を悔(く)いたと。 それで、 「掻いたげたらよかった。今なら掻こう。かっこう、かっこー」 というとったら、神様がその有り様(ありさま)をよーくご覧になっていて、息子を郭公鳥にしてしまわれた。 それで息子は、今でも、カッコー、カッコーと鳴いているのだと。 また、親のありがたさがわからんやつは、親の楽しみもわからんようにしてやる、と言われて、郭公鳥には自分で巣を作って子を育て上げることを禁じられたと。 それで郭公鳥は、百舌鳥(もずどり)の巣にばかり卵を産んで、百舌鳥に我が子を育ててもらうんだと。 郭公鳥の足の片一方にだけ脚絆(きゃはん)履(は)いたような羽毛(はねげ)が生えているのは、山遊びするとて足に脚絆を巻きつけているとき、おっ母さんに怒られて、片脚(かたあし)だけ巻いたところで逃げ出した名残り(なごり)なんだと。 チャンチャン。
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3-47『飯(まま)食(く)わぬ嫁(よめ)』
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2011-11-22
3-47『飯(まま)食(く)わぬ嫁(よめ)』 ―山梨県― 昔、あるところに吝(しわ)ん坊(ぼう)の男がおったと。 日頃、飯(まま)食わぬ嬶(かかあ)が欲しいというておったが、そんな嬶はいるはずもない。 ところがある日、ひとりの女が、 「俺、飯食わないから嬶にしてくりょ」 と言うてやってきた。 男はよろこんで嬶にしたと。が、その日から後(のち)はどうも米の減りが早い。あんまり妙だから隣の嬶に聞いてみると、 「お前(め)は何も知らんで喜んどるが、お前の嬶は毎日飯を三升ずつ炊(たい)て食うぞ」 と言うた。 それで男は、次の日山へ仕事に行くふりをして、天井うらから嬶の様子を、そっと見ていた。 そうとは知らない嬶は、米びつから米を出してとぎ、三升炊きの釜で炊いた。炊きあがると戸板をはずしてきて、その上に握り飯をこさえて積み上げた。 頭の髪をほぐすと、頭の中に口がいくつもあらわれた。その口へ握り飯をポイポイ投げ込んで食わせ、食い終わると釜を湯でゆすいで飲んだと。 男はそれを見て怖(おっ)かなくななり、晩方になって天井うらから下りてきて、今、山から帰ったような顔をして、 「お前はこの家に合わんから、今日限り出て行け」 と言うた。嬶は、 「出て行けって言うじゃあ出て行きもするが、土産に風呂桶と縄ァもらいたい」 と言うた。 男が言うだけの物を揃えてやると、嬶は、 「この桶、乾いて底が抜けちゃいかんから、お前がちょっくら入って見てくりょ」 と言う。 桶の中へ入ると、今度はしゃがんで見ろと言う。男がしゃがむと、嬶はパタンと蓋(ふた)をして、縄でくくってしまった。 そして、鬼婆の姿になってその桶を担ぎ、山へどんどん登って行くのだと。 男は怖かなくて、怖かなくてならん。どうなるんかなあ、と心配していたら、鬼婆は山の途中(とちゅう)で風呂桶を下(おろ)して、ひと休みした。 すると木の枝がさがっていて、桶の上にかぶさった。 男は桶の蓋をずらして、縄もずらして、その枝につかまって、そおっと逃げ出したと。 「ひと休みしたらからだが楽になった」 と言うて、また、その桶を担いで山を登って行った。が、どうも桶が軽く感じられる。 「休んだら軽いなぁ 休んだら軽いなぁ」 と唄いながら登って行って、やがて岩だらけのところへ行き着た。 「生魚(なまざかな)ァ持って来たから、みんな来ォやァい」 と呼ばったら、鬼どもが岩陰からぞろぞろ出てきた。 「さあ食え」 というて、風呂桶をとったら、空(から)っぽだ。 「はて、そんじゃ休んだ時に逃げられたか」 というて、鬼婆は、いま来た道をかけ下りた。 その速いこと速いこと。あっというまに男に追いつき、長い腕を延ばして、今にもつかまえかけた。 男はとっさに草むらの中にとび込(こ)んで隠れたと。 そしたら、鬼婆はその草むらの周囲(まわり)をうろうろするだけで、決して踏み込もうとはしなかったと。 その草むらは菖蒲と蓬がボウボウとうわっていたんだと。 鬼の身体にはそれが毒だから寄りつくことが出来ない。鬼婆は仕方なく山に帰って行った。 男は無事に家へ帰り着いたと。 その日が五月五日のことだったので、それからのち五月節供には、屋根へ蓬や菖蒲をさして鬼や魔物や病気寄けにするようになったそうな。 五月節供に作る饅頭を角饅頭(つめまんじゅう)といい、また鬼の耳(みみ)ともいうそうな。 いっちんさけぇ。
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3-46『嫁(よめ)と姑女(しゅうとめ)』
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2011-11-22
3-46『嫁(よめ)と姑女(しゅうとめ)』 ―茨城県― 昔昔、あるところに八百屋(やおや)があった。 八百屋は魚屋の娘を嫁に貰(もろ)うたと。 嫁はこまめに働くし、威勢はいいし、姑女さんも大層嬉(よろこ)んでおった。 月日が経って、嫁はこの家にすっかり馴(な)れた。そしたら、 「おっかさん、今日はボタ餅こさえる」 「おっかさん、今日は五目飯たく」 「おっかさん、今日鍋物にしよう」 という具合で、おまけに食っちゃ寝するようなった。 贅沢(ぜいたく)で我儘(わがまま)で怠けるようになった嫁を、どういうて諌(いさ)めたらいいか、姑女さん、頭を悩ましたと。十日も二十日も三十日も、考えて、考えて、考えぬいて、八百屋らしく青物尽(あおものづく)しで意見することにしたと。 どういう文句にするか、それからまた、十日も二十日も三十日も考えて、ようやく出来た。姑女さん、嫁に、 「これ嫁菜(よめな)、ここへ黄粉(きなこ)。浅葱(あさつき)からうとうととしてからに。なぜ豆々(まめまめ)蓮根(れんこん)精根(せいこん)を出しやらぬ。なんぼ馬鹿でも牛蒡(ごんぼ)でも、手さえかければ梅(うめ)くなる。これ嫁菜、そんな目ぇして大蒜(にんにく)しと韮(にら)むのは生姜(しょうが)恐ろしいぞや。そんなことでは隠元(いんげん)」 というた。言うたところが嫁は、フーンとせせら笑(わろ)うて、すぐに、 「おっかさん、鯒(こち)へ鯉(こい)とて針魚(さより)てみれば、赤い火魚(かながしら)みてよな頭をふりたてて鰯(いわし)やんす。なんぼ馬鹿でもワカシでも、嫁は鰤(ぶり)の出世魚(※)、いつかはおっかさんになるわいな。もちいと鯖(さば)けて泥鰌(どじょう)」 と魚尽(うおづく)しで切り返した。 これには姑女さん、すっかり感心してしもうた。 「俺が三十日もかかってこさえた文句を、お前(め)は、あっという間にこさえてしもうた。とてもかなわぬ。降参だ。これより杓子渡(しゃくしわた)しをする」 こんどは嫁がびっくりした。杓子渡し、いうたら、台所をまかすということだ。つまり家内(いえうち)のことはすべて嫁が取り仕切り、姑女さんは隠居するということだ。 説教されたり、言い返したり、どころの騒ぎでない。 「あの、おっかさん。それではさばさばし過ぎだ。俺では分(わか)かんねことばっかしで」 「なに、お前が俺よりどれほど賢いか判ったからには、なんにも心配しね。さっ、この杓子(しゃくし)、受けとってくれ」 嫁は杓子渡されたら、我儘も贅沢も怠けもしなくなったと。姑女さんを大層立てるようになり、上手に家を盛りたてたと。 いちごさけた。 (※)出世魚:ブリ科では、ワカシ、イナダ、ボラ、スズキ、ブリと成長によって名が変わる魚。
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3-45『葉(は)のない木(き)と葉のある木』
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2011-11-22
3-45『葉(は)のない木(き)と葉のある木』 ―岐阜県― むかしあったと。 ある日の暮れ方、雀(すずめ)と烏(からす)が林に行って、楢(なら)の木に一夜のお宿を頼んだと。そしたら楢の木は、 「お前達みたいな者に宿なんかかせん」 というた。烏が、 「そりゃまぁ、困ったこっちゃ」 というたら、神様が来て、 「烏と木は助け合うて生ないかん。ひと宿ぐらい貸してやれ」 というた。そしたら楢の木は、 「木のなかにも格ちゅうもんがある。なんぼ神様がなかに入られても、雀と烏ではお宿が違います。他の鳥さんへのしめしがつきません」 というた。 「もちいっと、心易(こころやす)うは出来んか」 「出来ません」 「そんなら仕方がない。そんなら今日以降、お前達には、冬は葉のないようにしてくれる。それでもいいか」 「ああ、それでもええ」 「あい、わかった。お前達、冬には着るものとてない身すぼらしい姿をさらすがよい。 これ、雀と烏。わしと一緒に他をあたろうか」 「はい」「はい」 ちゅうて、他へ飛んで行ったと。 杉やら松やら檜(ひのき)のところへ行き、雀と烏が 「日も暮れかけたんで、一夜の宿を貸してもらえんか」 と頼んだ。そしたら檜も杉も松も、 「宿は難しい」 というた。神様が、 「鳥と木は助け合うて生ないかん。ひと宿くらい貸してやれ」 というた。そしたら檜と杉と松は、 「はい、神様がそれほどに言わるるのなら」 「おう、そうか、お前達はええ心根(こころね)じゃ。今日以降どんなときでも年中葉のあるようにしてくれる。 これ雀と烏、今夜の宿は決まった。これでわしは帰るぞ」 「はい」「はい」 雀と烏のうれしそうな返事を聞いて、神様は帰っていったと。 それで、今でも楢の木は冬には葉がない。 檜や杉や松たちは冬でも葉が青々とあり、また、ぬくとい家が作れる木になったんだと。 しゃみしゃっきり、なたづかぽっきり。
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3-44『鯖売(さばう)りと山(やま)ん婆(ば)』
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2011-11-22
3-44『鯖売(さばう)りと山(やま)ん婆(ば)』 ―新潟県― 昔、あったてんがの。 あるところに鯖売(さばう)りがいた。 あるとき、鯖売りは魚籠(さかなかご)に鯖(さば)を入れて、山里(やまざと)へ売りに行ったと。 「鯖、えー鯖」 と売り歩いていたら、山から山(やま)ン婆(ば)が出て来て、 「鯖売り、鯖売り、おれが貰(もろ)うてやる」 「へい、なんぼほど」 「みな、貰うた」 というた。 鯖売りが魚籠を地面におろしたら、山ン婆は、鯖をまるごと口に放り込み、アクアク、アクアクいうて食うた。あれよ、あれよという間に、魚籠にあった鯖をみな食うてしまった。 「おばば、銭(ぜに)は」 「銭なんかあるもんか。お前(め)も食うてしまうぞ」 鯖売りは、たまげて走って逃げたと。逃げて、逃げて、森の中の一軒家に飛び込んだと。 「誰か、誰かぁ居(お)ろかぁ」 と荒い息して呼んだが返事がない。 鯖売りは、誰の家(いえ)か知らんが、隠れさせてもらお、と、その家の天井裏へひそんだと。 そしたら何と、山ン婆がやってきて、囲炉裏端(ばた)にコロンと横になった。鯖食うて、腹ふくれて、イビキかいている。山ン婆の家だったと。 天井裏では鯖売りが、さあて、困った、と息をつめていたら、やがて、山ン婆が目をさました。して、 「はて、まあ、のどがかわいた。甘酒(あまざけ)わかそうか、辛酒(からざけ)わかそうか」 というから、天井裏にひそんでいた鯖売りは、 「甘酒、わかせ」 と、いうてやった。そしたら、山ン婆、 「ああ、囲炉裏の火の神様が甘酒わかせ、というた。甘酒ひと鍋わかそうか」 というて、囲炉裏の自在鍵(じざいかぎ)に鍋を掛けて、甘酒をわかしはじめた。腹あぶりしたり、背中あぶりしているうち、コクラ、コクラと居眠りしたと。 甘酒がわいたら、鯖売りは天井裏から葦(よし)ン棒(ぼう)でツウツウとみな吸い上げてしもうた。 山ン婆が目をさまして、さて、甘酒わいたかな、と鍋を見たら、なんにも無い。 「そうか、火の神様が飲んでしまわれたか。そいじゃ、こんだぁ餅焼いて食おか。干(ほ)し餅焼こか、いい餅焼こか」 というたので、天井裏の鯖売りは、 「いい餅、焼け」 というた。 「火の神様がいい餅焼けというた。いい餅焼こう」 というて、餅わたしにいい餅並べて焼きはじめた。腹あぶりしたり、背中あぶりしているうち、コクラ、コクラと居眠りしたと。 餅が焼けて、プーとふくらんだので、天井裏の鯖売りは、葦ン棒をとんがらかして、焼けた餅を突き刺しては引きあげ、みな食うてしもうた。 山ン婆が目をさまして、さて、餅が焼けたかな、と餅わたしを見たら、なんにも無い。 「そうか、火の神様が食うてしまわれたか。そいじゃ、もう寝よう。木(き)の櫃(からと)に寝よか、石の櫃に寝よか」 というたので、鯖売りは、 「木の櫃に寝え」 というた。 「火の神様が木の櫃に寝えというた。木の櫃で寝よう」 というて、木の櫃に寝たと。 すぐにイビキが聞こえてきたので、鯖売りは天井裏からおりた。 鍋にお湯をグツラグツラわかし、きりで木の櫃に穴を開けたら、キリキリ音がした。 山ン婆が目をさまして、 「キリキリ虫が鳴いている。そうか明日(あした)は天気がいいか」 というた。 鯖売りは、その穴から熱(あつ)い湯をそそぎこんだ。山ン婆は、 「あつつ、あつつ」 いいながら、大やけどをして死んでしもうたと。 いきがポーンとさけた。
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3-43『これ彦八(ひこはち)、早(は)よ話(はな)せ』
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2011-11-22
3-43『これ彦八(ひこはち)、早(は)よ話(はな)せ』 ―島根県― 昔あるところに彦八がおった。 彦八の近所に禅寺(でら)があった。茶菓子をめあてに、彦八はいつも遊びにいっていた。行くたびに和尚さんは、 「彦八、珍しい話はないか」といわれる。そこで彦八が話をすると、和尚さんは、 「それは嘘ではないか」 というのがくせであったと。ある日も、 「彦八、珍しい話はないか」 といわれたので、彦八、 「和尚さんはいつでも『嘘ではないか』とおっしゃるので、今日は話さない」 というた。そしたら和尚さん、 「いまからは決して『嘘ではないか』と言わぬ。いわぬから話せ。もしいうたら、わしの頭をなぐってもいい」 といわれた。 「そんなら、まあ、しましょうかい。 今日、ここへ来る途ちゅうで珍しいものを見ました」 「ほう、どんなだ」 「寺の石段の下の茶店の爺(じい)に呼び止められまして、『いい茶釜が手に入ったので飲んで行け』とうれしそうに言われました」 「ふむふむ」 「ことわるのも何んじゃ思うて呼ばれて来たんですがの、爺が自慢するだけあって、それはうまい茶でした」 「ほう、わしもあとで立寄ってみるか。して、茶釜は一体どんなだった」 「はい、桐の木の茶釜で茶を沸かしよりました」 彦八がこういうたら、和尚さん、思わず、 「それでは茶釜が燃えるではないか。これ彦八、そりゃ嘘じゃろう」 といわれた。 彦八、和尚さんの頭をポカリなぐったと。 次の日、彦八は、また、寺に行った。 そしたら和尚さん、 「これ彦八、昨日のなぐられた頭がまんだ痛いわい」 「そりゃあ、ええあんばいです。痛いうちは『そりゃ嘘じゃろう』とは言われませんじゃろうから」 「ふむ、それもそうじゃ。今日は嘘じゃろうとはいわんから、何か珍らしい話はないか」 「ないことはないですが、はたして終(しま)いまで話すことが出来ますかどうか」 「何んじゃ、どんな話じゃ。決して『嘘ではないか』と言わぬ。いわぬから、早よ話せ」 「それでは。昨日和尚さんをなぐった帰りのことですがの」 「ふむ」 「和尚さんをなぐった当座は、気持がスカッとしとったんですがの、歩いているうちに何やら心が落ちつかなくなってきよりました」 「ほう、そうじゃろう、そうじゃろう」 「たたりがありはせんかいなあ思いまして、それで験(げん)なおしに村の鎮守さまを拝んでおこうて思案しまして、一本橋を渡りよった」 「これ彦八、うーん、まぁよい、話せ」 「真中どころへさしかかったとき、橋がぐるりとまわり、この彦八、必死にぶらさがったげな。ぶらさがって、ぶらさがって」 彦八、このあと、ぷっつりおしだまった。話さない。まだ話さない。 「これ彦八、どうした。その先をはよ話せ」 「いや、話さない」 「話せ」 「はなせば落ちる」 昔こっぽり
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3-42『五寸釘(ごすんくぎ)』
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2011-11-22
3-42『五寸釘(ごすんくぎ)』 ―熊本県― この話は女子(おなご)と子供には聞かせたくないのじゃが、ことのなりゆきで・・・ま、たまにゃ、いいかの。 昔、あるところに一人息子がおった。十八、九になったが、口数は少のうて、温和(おとな)しいかぎり。父さんも母さんも、 「一人息子で可愛がり過ぎたのかねぇ。嫁御(よめご)貰(もら)う気もおこらんようだし。困ったもんね」 「うーん。ずうたいばかり大きくてもまんだ子供なのかなぁ」 といいあっていたと。 ある朝、父さんが便所に行ったら、横の柱の、ちょうど腰ぐらいのところに五寸釘が一本打ち込んであったと。父さん、母さんに、 「あの釘はなんだ」 と聞いたら、 「あら、父さんが打ち込んだものとばかり思うとった。違うんですか」 「わしゃ知らん。すんなら息子が打ち込んだんだな。」 「でも、何の為に打ったんでしょう」 「つかまる為でもなさそうだ」 父さん母さん、何に使うかその場で見届けてやろうと思うて待っていたが、息子は親のいるときは便所へ行こうとせん。 それで息子に聞いてみたと。 「息子や、便所の柱のな、五寸釘打ったのは、お前だろ。あの釘な、なんに使うか、母さんには教えとらんが、父さん、気がついている。なんちゅうだらしないことか。元気盛(ざか)りのお前が、五寸釘に品物を乗せて小便するなんて、あまりにもなさけないぞ。父さんが若い頃は、そんな不調法(ぶちょうほう)はせんじゃったぞ」 そしたら、息子は頭をかいて、 「いや、その、違うんだ、父さん。その逆だ。俺のは、その・・・品物が毎朝あんまり勢いよう上を向いて、天上に小便かかるから、そのう、自分の手じゃ押し下げきれん。それであの釘の下に差し込み、押さえにしとる」 というた。そしたら父さん、 「う、うーん、そうありたいもんじゃ」 と、こういうたと。 そりばっかりのばくりゅうどん。
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3-41『爺(じい)か神(かみ)か』
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2011-11-22
3-41『爺(じい)か神(かみ)か』 ―広島県甲奴郡― 昔、あるところにお爺さんとお婆さんがおったそうな。 あるとき、お爺さんが山へ木ィ挽(ひ)きに行ったと。 朝まから木をゴリゴリ、ゴリゴリ挽きおったら、のどがかわいた。 「こりゃあ、のどが干(ひ)いてかなわんけ」 言うて、谷へ下りて、そけえ流れる水を呑もう思うたら、そりゃぁ水で無(の)うて、酒じゃったと。 お爺さん、腰に下げとったひょうたんに、その酒を入れ、その酒を呑み呑みしておったら、酔うたと。 大きな岩の上へ大の字になって、金玉ァ出ゃぁて寝てしもうた。 そうしてたところが、そこへ夕方になってどやどや、どやどや、山のもんがやって来て、長い竹棹(たけざお)を持って、 「そこへおるんは、爺か神さんか、爺か神さんか」 言うて、金玉つつくんだと。 金玉つつかれて爺は目を覚ましたと。 覚ましたは覚ましたけど、 「どうもおかしいのぉ」 思うて、様子をうかがうのにじいっとしておった。そしたら、また、 「そこへおるんは、爺か神さんか」 言うて、長い竹棹で遠くから爺の金玉つついてきた。爺はおかしゅうても黙っておったと。 そしたら、山のもんたちゃぁ、たがいにうなずきおうて、 「まぁ、これは神さんじゃ」 言うて、山の幸を仰山(ぎょうさん)持って来て、供(そな)えたそうな。 山のもんがおらんようなってから爺さんは、仰山のお供えを持って家に戻ったと。 隣りの爺さんや婆さんも呼んでご馳走したと。ひょうたんの酒もふるまって、ご馳走も食べ、 「面白(おもしれ)ェな、面白ェな」 言うていたら、隣りの婆が、 「うちも。こんな酒や山の幸が欲しい」 言うた。 次の日、隣りの爺さんが真似をして山へ木ィ挽きに行こうとしたら、婆さんが、 「樽を持って行きんさい、酒を持ってくるんさかい」 言うて、大きな樽を持たした。 隣りの爺さん、山へ行って、木をゴーリとひと挽きしただけで、そこらへんに腰を下ろしとった。昼どきになってものどがちっとも干(ひ)んのだと。 そんでも、まあ、谷の酒を取りィ行かないけん思うて、樽をかついで谷へ下りて行ったと。 そけえ流れる酒を呑もう思うたら、そりゃぁ酒で無(の)うて、水じゃったと。 「あの爺ィ、嘘ォついたなやぁ。水じゃ酔いやせんわい」 言うて、岩の上で金玉ァ出して、ふて寝したと。 そうしてたところが、夕方になって、どやどや、どやどや、山のもんがやって来た。 長い竹棹を持って、 「そこへおるんは、爺か神さんか。爺か神さんか」 言うて、金玉つつくんだと。 隣りの爺、金玉つつかれて目を覚ました。 覚ましたら、つつかれるたんび、金玉が痛いやら、こそばゆいやら、おかしゅうてかなわん。思わず、 「クックックッ」 言うて笑(わろ)うたと。そしたら、 「やっぱりこれは神さんじゃない。昨日の爺も神さんじゃない」 言うて、隣りの爺におそいかかったと。 隣りの爺、命あってこその大怪我して戻ったそうな。 昔こっぷり。
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3-40『きつつきと雀(すずめ)』
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2011-11-22
3-40『きつつきと雀(すずめ)』 ―鹿児島県― むかし、むかし。きつつきと雀は姉妹(しまい)だったそうな。 あるとき、きつつきと雀は着物を織ろうとかせ糸を染めていたと。 そしたらそこへ使いが来て、 「親が病気で死にそうだから、すぐに来い」 というたと。 親おもいの雀は、親が病気と聞いて、着物どころではない。 「姉ちゃんすぐに行こ」 というたら、きつつきは、 「なによ、大げさなんだから。そんなにかんたんに死ぬもんですか。私は着物を縫いあげてから行く。美しい着物を着た私を見たら、いっぺんに元気になるわよ」 というて、かせ糸を染め続けたと。雀は、 「じゃあ、私、先に行くね。やっぱり心配だから」 というて、かせ糸を首にかけたまま飛んで行ったと。 きつつきは「妹はほんとに心配性なんだから」といいながら、かせ糸を染めていたと。 雀が親のところへ着いてみたら、親の病気は本当に重くて、今にも命が切れようとしていた。親が寝床から雀を見て、 「おお、ようきてくれた。お前ひとりか。お姉ちゃんは」 ときいたので、雀は、 「お姉ちゃんはきれいなべべを縫いあげてからくるって」 というた。そしたら親は、 「きつつきには、親の死に目にすぐに来ない罰をやらにやぁ」 というて、 「姉には、山の木の虫をとっては、一(ひと)つは天に、一つは地にあげて、三つ目が自分の口に入るような暮らしをしなさい、というといてちょうだい。いいわね。 雀よ、お前は親孝行だから、村々の米倉を捜して、米を食べる暮らしをしなさい。田んぼの初穂をついばみ、豊作を祝ってやる暮らしをしなさい」 というた。これがゆいごんになったと。 それで雀は初穂をついばみ、米倉に寝て米を食べ、きつつきは山で木にさかさにとまって、木に穴を開けて虫を捜しているのだそうな。 雀が首に白い木綿をまいて、きつつきがかすりの美しい着物を着ているのは、こんなことがあったなごりなんだと。 そしこんむかし。
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3-39『金(きん)の鳩(はと)』
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2011-11-22
3-39『金(きん)の鳩(はと)』 ―石川県― 昔々、あるところに、太郎と次郎と三郎がおったと。 あるとき太郎は山へ薪(たきぎ)とりに出かけたと。昼どきになって握り飯をほうばっていたら、 白(しろ)い髭の爺(じ)さがどこからともなくあらわれて、 「その握り飯、半分わけてくれ」 と言うた。 太郎、分けてやらなかったと。白い髭の爺さ、どっかへ行ったと。 太郎が握り飯を食い終わって、また薪とりをしていたら、木の下の洞に落ちて打ちどころが悪く怪我したと。 太郎、泣きべそかいて家に戻ったと。 次の日、次郎が山へ薪とりに出かけたと。 昼どきになって、握り飯をほうばっていたら、白い髭の爺さがどこからともなくあらわれて、 「その握り飯、半分わけてくれ」 と言うた。 次郎、分けてやらなかったと。 白い髭の爺さ、どっかへ行ったと。 次郎が握り飯を食い終わって、また薪をとっていたら、ナタでおのれの足を削ってしまった。 次郎、泣きべそかいて家に戻ったと。 次の日、三郎が山へ薪とりに出かけたと。 昼どきになって、握り飯をほうばっていたら、白い髭の爺さがどこからともなくあらわれて、 「その握り飯、半分わけてくれ」 と言うた。 三郎、爺さに半分わけてやったと。爺さ、 「うまかった。これ、お礼だ」 というて、懐(ふところ)から金(きん)の鳩(はと)を出して、くれた。 三郎、嬉んで、金の鳩と薪を持って家に帰ろうとしたら、日が暮れた。 暗い山径(やまみち)を歩いていたら、みたこともない立派なお城があった。理由(わけ)を話して泊めてもろうたと。 床をのべにきたお女中(じょちゅう)が床の間にきれいな金の鳩があるのを見て、触ったと。そしたらなんと、その手がひっついてとれなくなった。もう一方の手を金の鳩に添えてみたら、その手もひっついた。足をかけて手を引っ張ろうとしたら、その足もひっついた。もう一方の足もひっついたと。 騒ぎを聞きつけて、他の人が助けようとしてそのお女中をひっ張ったら、その人もひっついた。そうやって、次々と人がひっ付いていくものだから、お城中大騒ぎだと。 ところで、このお城の殿様に一人娘がいたと。他に並ぶひとの無いくらい別ぴんさんだったが、おしいことに生まれてこの方、一度も笑うたことがなかったと。 このひっ付き騒ぎを聞きつけて、そのお姫様が出て来たと。 「姫さまぁ、お助け下さい」 と、お女中がなさけない声でうったえるもので、お姫様、つい手を出した。手がひっ付いたと。もう一方の手もひっ付き、足もひっ付き、頭もひっ付いたと。 金の鳩のまわりに、いろんな人がひっつき、その人のうしろにまた人がひっつき、幾重にもひっつき、一番うしろにお姫様がひっついている。 三郎、湯からあがって来たら、このあり様だったので、つい、笑うてしまった。 そしたら、今迄笑うたことのなかったお姫様が、つられて、「ほほほ」と笑うたと。 一度笑うてしまえば笑(わら)うほどに愉快になって、笑いが止まらなくなったと。 「姫が笑うた」 「姫が笑うた」 というて、お城の中じゅう誰も彼もの顔が輝いたと。 三郎が笑い、お姫様が笑い、お城の人たちが笑い、みんなが笑うたら、金の鳩から、一せいにひっついた手が離れたと。 みんなはそれがおかしい言うて、また笑うたと。 殿様は 「今まで姫に遠慮して、この城では声を出して笑う者が無かった。笑うと、こんなにも明るく輝いた顔になるとは」 と大変喜んで、三郎をお姫様の聟殿に望まれたと。 お姫様も喜んで、三郎も喜んで、お城の者たちも喜んで、盛大な祝言を催したと。 そのろん げったん がんなます。
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3-38『おれが大(おお)きい』
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2011-11-22
3-38『おれが大(おお)きい』 ―香川県― とんと昔もあったげな。 あるところに、片方の羽を拡(ひろ)げると千里、もう片方の羽を拡げるとまた千里ある大きな鳥がいたと。 われほど大きな生き物はあるまいと思い、大いばりで飛んでいたと。 飛んでいるうちに太平洋の真ん中あたりでくたびれてきた。ちょうど材木が二本、海の中から出ていたので止まったと。 休んでいると材木が動いて、下から、「わしの髭(ひげ)に止まるやつは誰だ」と大きな声がした。 「お前は一体全体何者だ」 と、鳥が問い返したら、また材木が動いて姿をあらわした。大きな海老だったと。材木と思っていたのは海老の髭だったと。鳥が、 「われは二千里の大きさだが、お前はどれ位大きい」 と聞くと、海老は、 「わしは五千里の長さだ」 という。 鳥は、バッサ、バッサと羽ばたいて元のところへ逃げていったと。 海老はおのれの大きさに気がついて、大いばりで海を泳いで行ったと。 いくがいくがいくと、くたびれたので海につきでた岩に足をかけて休んだと。 休んでいると岩が動いて、下から、 「おれの背中に止まるやつは誰だ」 と大きな声がした。 「お前は一体全体何者だ」 と、海老が問い返したら、また岩が動いて姿をあらわした。大きな亀だったと。岩だと思っていたのは亀の背中だったと。海老が、 「わしは五千里の大きさだが、お前はどれ位大きい」 と聞くと、大亀は、 「おれの体は一万里ある」 という。 海老はバネみたいにはじけて元のところへ逃げて行ったと。 大亀はおのれの大きさに気がついて、大いばりで海を泳いで行ったと。 いくがいくがいくと、くたびれたのでつるんとした小山のような島にあがって休んだと。休んでいると山が動いて、下から、 「おいらの背中に止まるやつは誰だ」 と大きな声がした。 「お前は一体全体何者だ」 と大亀が問い返したら、また山が動いて姿をあらわした。大きな蛤(はまぐり)だったと。大亀が、 「おれは一万里の大きさだが、お前はどれ位大きい」 と聞くと、蛤は、 「おいらは二万里ある」という。 亀は首をひっこめて、元のところへ逃げて行ったと。 大蛤はおのれの大きさに気がついて、大いばりで海の底をぞろいぞろり這(は)って行ったら浜辺にあがったと。 なおも這っていたら、小さい女の子が来て、その蛤を拾って籠の中へポーンと投げ入れたと。 蟻(あり)の目にドングリが入って 針(はり)で掘っても釘(くぎ)で掘っても取れなかった 杵(きね)で掘ったらぽーんと取れた。
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3-37『往生(おうじょう)の薬(くすり)』
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2011-11-22
3-37『往生(おうじょう)の薬(くすり)』 ―山口県― むかし、むかし、あるところに姑(しゅうとめ)と嫁(よめ)とが一緒に暮らしていたそうな。 姑と嫁はたいそう仲が悪かったと。 姑は嫁のやることなすことすべて寸足らずに思えてならないし、嫁は嫁でこごと屋の姑とこの先ずうっとひとつ屋根の下に住んでおらにゃならんかと思うと、つらくてつらくて辛棒(しんぼう)出来んようになっていた。 あんまり姑が嫁をいびるので、ある日、嫁はお寺の和尚さんのところへ行って 「和尚さま、和尚さま、家の姑さんはひどうて、ひどうて、はあ、わたしゃぁ一緒におるのがつろうてなりません。出来るものなら和尚さま、姑さんを往生させて下さいませんか」 というた。和尚さん、 「なんぼなんでも、まんだピンピンしとる者(もん)を往生さすっちゅうのはな。そら出来んでえ」 というた。 「そんなら和尚さま、誰れにも知れんように、薬を盛(も)って下さりませえ」 「ほうか、そこまで思いつめたか。うーん。そいじゃぁ、絶対に人に言うんじゃないで。ええかや。そいからの、にわかに殺すと他人(ひと)が疑うけえ、ぼつぼつ弱ったあげくに、すうっと死ぬるような薬をあげよう。まあ七日(なぬか)もすりゃたいてい弱って、枯木(かれき)が倒れるように死ぬるじゃろう。 そのかわり、七日の間、どんなにつらくとも、せつなくとも、この和尚のいうとうりにするかや」 「はい、七日じゃけえ、どんなことでも」 「よしよし、そいじゃぁ、これから七日ほど、ご飯に薬をまぜて食べさすんじゃ。そいでな、その間は、姑がどんなことをいうても、はい、はいちゅうて、いう通りにするんじゃ。どんなに無理をいわれても、はいはい言うんじゃぞ」 和尚さん、こう念(ねん)おししたと。 嫁は、お寺から帰ってきて、三度三度のご飯のなかに、薬を混ぜては姑に食べさせたと。 姑から何をいわれても、はいはいで通したそうな。 そうして、どうやら七日間が過ぎた。が姑はなかなか弱りそうにない。それどころか、姑がだんだん無理を言わなくなって、その分優しくなってきたそうな。 嫁は、“死ぬる前には仏のようになる”とはよく聞く話だ。姑が幾分優しくなってきたのは、死ぬる時季(じき)が近くなってきたからにちがいない、と思うた。 また、お寺に行って、和尚さんにこのことを話した。そしたら和尚さん、 「そうか、そうか」 というて、にこにこして聞いている。 「薬を、もう少し下さいませ」 「それじゃ、もう七日分あげようかの。そのかわり、また、姑が何をいうても、はいはいって叶えてやるんじゃぞ。こんだぁ、いよいよ薬が効いてきて、死ぬるじゃからの」 「はい」 嫁は、家に帰ってきて、また、和尚さんのいわれたとうりにしたと。 そしたら、何日か経ったころ、姑が町へ行って、いい着物を買(こ)うてきた。姑は嫁に、 「これ、お前に買うてきた。このごろわしにようしてくれているので、わしゃ、嬉しくての」 というた。 たまげた嫁は、なんもかんも放(ほ)っぽり出して、あわててお寺へ行き、 「和尚さま、和尚さま、おおごとでございます。早(は)よう姑さんを助ける薬を作って下さいませ。姑さんを往生させたいなんて、とんでもない考えをしちょりました。早よう、何とかして下さりませ」 というて、和尚さんの衣(ころも)をつかんで大騒ぎだと。 「よいよい、そんなにあわてなくともよいわ。姑は死にゃぁせん。 なぁ嫁さんや、お前が姑のいうことを聞かんから、姑はぐちるのじゃ。お前がはいはいと返事すりゃぁ、姑もかわいがってくれる。 なぁ、いいかや。人にしてもらうよりは、先に、人にしてあげなくてはならんのじゃ」 「和尚さま、このたびはそれがようわかりました。これからは姑さんと仲ようしますから、死なんですむ薬を早よう作って下さいませ。今まで、私は心に鬼を棲(す)まわしておりました。なんという恐ろしいことを考えていたもんだか。ああ、おそろしい」 というて、嫁は泣いたと。 和尚さん、それを見て、にこにこして、 「泣かんでもよい、泣かんでもよい。姑は死にゃぁせん。あの薬はのう、葛粉(くずこ)(※)じゃった。滋養になりこそすれ、死にゃぁせん。これからは仲よう暮らしなさい」 と、こういうたと。 心がはれた嫁は、姑と仲よう暮らしたと。 これきりべったりひらの蓋 (※)葛粉:つる草の名。その根からとった白色のでんぷん質の粉。
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3-36『夫婦(みょうと)のむかし』
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2011-11-22
3-36『夫婦(みょうと)のむかし』 ―山口県― 昔、昔の大昔。 なんでも、人間ははじめ、夫婦(みょうと)が背中あわせにくっついて生まれてきていたそうな。 あるときのこと、大勢の人間たちが集まって、神さまに、 「わしたちゃあ、背中と背中とがくっついちょるんで、夫婦でありながら我が女房、我が夫の顔を見ることも出来ん。これではなんぼうなんでも情(なさけ)のうございます。 どうか背中を割っていただきとうございます。 前のわしと後ろの妻とが、顔を見られるようにしてください。おたのみ申します」 と、お願いした。 神様は、ちょっとの間(ま)考えて、 「それも、もっともじゃ」 といわれ、御手(みて)を、手刀(てがたな)きるようにバスーっとたてに下ろされた。 そしたら、そのとたん、みんなの背中が軽うなった。背中が割れて、ひとつがふたつになった。 片割れの顔をシゲシゲ見つめあうのがいたり、モジモジし合うのがいたり、「はじめまして」とか「やあ」とか「オウ」とか言うてみたり、なかにはずうずうしいのがいて、「ホォー」というのやら「トホホ」というのやらがあって、とにかく、めでたいめでたい、と大騒ぎ。あっちこっちで抱き合うたり、肩たたき合うたり、とんだりはねたりしているうちに、混じり合うて、どれが己(おのれ)の片割れやら何が何だか分からんようになってしまったと。 景色(けしき)のいいのや心映(こころば)えしそうなのには「俺が夫だ」「あたしが妻よ」というて、幾人も名乗り出てくるのに、だぼはぜやおこぜみたいなのには誰れも来なかったりしたと。 それで人間たちは困ってしまい、また神様に、 「背中割ってもろうてありがたかったですが、片割れがどれがどれやら見分けがつかんようになり申した。これでは連れ相いと会うことが出来ません。なんとかして下さりませ」 と、お願いしたと。すると神様は、 「それじゃあ、愛するっちゅう力を与えてやるから、それをたよりにたずねまわって、片割れをさがし見つけよ」 と、いわれたそうな。 人間たちは、愛するっちゅう力がどんなものやら分からなくて、とりあえず一緒に暮らすものも出てきた。暮らしているうちに、しっくりいくものといかない者があったと。 しっくりいくものは片割れ同志で、しっくりいかない者は片割れでなかったと。 「私、神様が授けて下さった愛するっていう力が感じられないの」 というて別れて、また、片割れをさがしたと。 今でも離婚はあるけど、あんまり深刻にならんでいい。なにせ、大昔にこんな調子だったのだから。 人は誰れでも愛するっちゅう力を授かっていて、いつか必ず、その力を感じる片割れに出逢えるそうな。 これきべったりひらの蓋(ふた)。
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3-35『紙(かみ)すき毛(け)すき』
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2011-11-22
3-35『紙(かみ)すき毛(け)すき』 ―山口県― むかし、むかし、周防・長門、今の山口県の農家では、楮(こうぞ)をつくって紙をすき、米のかわりに年貢(ねんぐ)として殿様へ納めていたそうな。 冬の寒い山里での紙をさらす水仕事は、身をきられるようにつらいものだったが、その頃は夜鍋(よなべ)をかけても働かないと、暮らしていけなかったと。 ある山里(やまざと)に、弥兵衛(やへえ)という若い百姓が、女房と二人で紙をすきながら細々(ほそぼそ)と暮らしておったと。 女房は村でも指おりのきりょうよしで、心の優しい女だった。二人は貧乏ではあったが心を寄せあって紙をすく、今の暮らしが好きだったと。 その頃、代官所(だいかんしょ)には勘場(かんば)といわれる所があって、出入り商人や年貢などのソロバン勘定をする役人がおった。 その勘場の役人がひとり、ある日から、弥兵衛の家へほとんど毎日やってくるようになったと。 仕事場に陣どり、 「いやあ、いつ見ても別ぴんじゃのう」 「おっ、これはすまん。ここの別ぴん女房どのの煎(い)れてくれる番茶は、また、格別うまくての」 「それはどうするんだ。おっ、そうか、そうか」 「うむ、よい紙が出来たな」 とかいうて、問うたり、誉めたりしておったと。 弥兵衛は、そんな役人が居ても居なくてもいつに変わらなく紙すきに精を出していた。 夜鍋仕事(よなべしごと)もひと段落し、茶を呑みながら弥兵衛が女房に、 「あのお役人、今日は来なかったので、仕事がはかどったな。それにしても、熱心なお役人だな」 というたら、女房は、 「あたし、あの人なんだか気味悪い。二心(ふたごころ)ありそうで」 というた。 二人は知らなかったが、実は昨日、あの役人が弥兵衛の家からの帰り道で、 「たいがいの者なら、これだけ儂(わし)が訪(おとな)えば『どうぞお納め下さい』とかいうて、すきあげた紙一束(ひとたば)くれたり、金のいくらかでも包んで渡してくれるもんじゃが、弥兵衛のやつめ、あうんのこころを知らん。ようし、いまに見てろよ」 と、つぶやいていたのだった。 そして、その役人は、ぷっつり弥兵衛の家に来なくなったと。 ある日のこと、勘場から弥兵衛に呼び出しがあった。 「なにごとじゃろう」 と、弥兵衛が案じながら勘場に行くと、代官が、 「このごろお前が納める紙は、どうしようもなく質が悪いぞ」 といい、納めた紙を突き返してよこした。 その紙を見ると、自分が納めた物とは異(ちが)っていて、実に質の悪い紙だったと。 弥兵衛は妙に思ったが、替わりの紙をすいて納めたと。 また、呼び出された。 「まえにも増してこのような悪い紙を納めるとは、ふとどきなやつ」 と、おしかりを受け、また突き返されたと。 しかし、それも自分で納めた紙ではないことがすぐに判(わか)った。 「お代官様、おそれながら申し上げます。これは、わたしがお納めしました紙ではございません」 「つべこべいうな。みぐるしいぞ」 とりつくしまもなく、弥兵衛は怒られた。 こんなくり返しが三度、四度とあって、そのたびに弥兵衛と女房は、夜も寝ないで紙をすき、念には念を入れて質の良い紙を納めたと。そうしてはまた、突き返えされる紙は、身に覚えのない悪い紙だったと。 ある日、弥兵衛は、代官から 「お前の物とはちがうというが、何か証拠でもあるのか」 と詰め寄られた。弥兵衛にひとつの思案が浮かんだ。 弥兵衛は、己れの髪の毛を切って、紙の隅に一本ずつすきこみ、目印にして納めたと。 また呼び出しを受け、また、質の悪い紙をつき返えされた。 「お代官さま、これはわたしが納めたものではございません。わたしが納めましたものには、目印があります」 「なんじゃ、目印とな」 「はい、わたしの納めた紙の隅には、わたしの髪の毛を短かく切り、一本あてすき込んであります。ようくお調べ下さい」 代官が家来(けらい)に命じて調べさせたら、髪の毛が隅にすき込んである紙がたしかにあり、しかも一番出来が良いと評価された紙だった。 代官は、すぐさま勘場の役人の誰かのはかりごとがあったことに気づいたと。 が、今この場でそれを認めたら、代官所の信用が落ちることになる。あいてはたかが百姓と、すばやく頭をめぐらせた。 「その方、御上納(ごじょうのう)の紙に、けがらわしいゲスの髪の毛をすきこむなど、恐れを知らぬふとどき者じゃ。許しておけぬ。引き立てい」 と声をふるわせて申しわたしたと。 弥兵衛は、女房に会うことも許されないで、次の日、朝早くに首を斬(き)られてしまったと。 代官が気がついた勘場役人のはかりごとは確かにあった。かつて、弥兵衛の家に毎日訪れていた役人が、わいろを出さない弥兵衛をおとしいれてやろうとして、弥兵衛の納めた紙を別の悪い紙とすり替えては、代官に見せていたのであった。 弥兵衛の首が斬られたその晩から、その勘場の役人は理由(わけ)のわからない熱病にかかり、髪の毛をかいむしって苦しみつづけて、とうとう死んでしまったと。 これきりべったりひらのふた。
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3-34『鶴女房(つるにょうぼう)』
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2011-11-22
3-34『鶴女房(つるにょうぼう)』 ―新潟県― むかし、むかし、あるところにひとりの貧しい若者がおったと。 ある冬の寒い日のこと、 若者が山へ柴(しば)を刈(か)りに行くと、鶴が一羽、パタラパタラ、落ちるように降りてきた。 そして、飛びあがろうとしてはよろめき、よろめいては羽ばたいて、若者の側(そば)へ来た。 力(ちから)つきてうずくまった鶴をよくよく見たら鶴は羽のつけ根に矢を射られて苦しんでいるのだったと。 「おお、かわいそうに。これでは飛ぶにも飛べないな」 若者は周囲(あたり)を見わたしたが、猟師の姿は見えなかった。いそいで矢を抜いて、傷口を持っていた竹筒(たけづつ)の水で洗ってやり、 「ちょっと待っとれよ」 というて、とある草を探し、見つけて、その草の葉の絞り汁を傷口になすりつけてやったと。 「さあ、もう大丈夫だ。これからは猟師の近くへは近寄るんじゃないぞ」 というて、放してやったと。 鶴は、若者の頭の上を三遍、輪を絵(か)画くように飛んでから、 「カウ」 という、ひと声残して、空高く飛んで行ったと。 しばらくたったある晩、若者の家の戸を、ホトホト、ホトホト、と叩く者があった。 「はて、こんなに凍てつく晩、外を歩いている人なんぞあるんかな。誰だい」 といいながら戸を開けたら、戸口に見たこともない美しい娘がひとり立っていた。 寒風(さむかぜ)がビューッと吹き込んで、若者は思わず身を縮(ちじ)こめた。 「おお寒ぶ、そんなところへ立っていないで、内(なか)へ入って」 というて、娘を引き入れ、戸を閉めた。 「あんたさん、どなたでしたか」 と聞いたら、娘は、 「すみませんが、今晩ひと晩泊めて下さい」 という。 若者は、旅の途ちゅうで行(い)き暮(く)れた娘かな、と思うて、気の毒になり、泊めてやったと。 娘は次の日も、その次の日になっても若者の家にいて、旅立つ気配がない。 若者も、毎日、仕事から帰ってみると夕餉(ゆうげ)が出来ているし、家の中は掃除されてきれいになっているし、別段、旅立ちを急(せ)かせもしなかった。 そうして日が経(た)ったある日、若者が柴(しば)を集めて山から帰って来ると、娘はニューとほほえんで、 「お疲れさま」 というて、やさしく出迎え、 「わたしは、あなたの嫁ごでございます」 という。若者が、 「からかっては困ります。おれは貧乏で、己れ一人の口を養うのが精一杯(せいいっぱい)。今(いま)嫁ごを迎えたりしたら、すぐにでも食べる物にこと欠(か)くありさまだ」 というたら、娘は、ちょっと小首(こくび)を傾(かし)げて 「それは心配いりません。私にいい思案があります」 というた。 「そうか。そんなら、お前さえよかったらおれはありがたいくらいだ」 というて、承知して、二人は夫婦(みようと)になったと。 次の朝になって嫁ごは、若者に、 「わたしに、機織場(はたおりば)を建(た)ててください」 と頼んだ。若者は建ててやったと。 すると嫁ごは、 「これから錦(にしき)を織ります。どうか七日の間、決して中を見ないで下さい」 といい、若者に固(かた)く約束させた。 それからというもの、朝から晩まで、キッコバタン、キッコバタンと機(はた)を織るおさの音が鳴りつづいた。 若者は、嫁ごに約束した通りのぞき見しなかったと。 七日が過ぎた。キッコバタン、キッコバタンという音が止み、嫁ごが機織場から出てきた。 「この錦を、明日(あした)は殿様のところへ持って行って、売ってきて下さい。『この世にこれしかない錦』といえば、千両で売れるでしょう」 「これが千両になるのか」 若者は一両すら持ったことがないのでびっくりした。 次の日、殿様のところへ行くと、嫁ごのいう通り、千両で買うてくれた。そして、 「もう一反織ってまいれ」 といいつけたと。 若者は、千両持って家に帰ってくると、殿様の命令を嫁ごに伝えた。嫁ごは、 「もう一反織れますかどうか。でも、あなたの命があぶないというのなら、もう一度機織場に入ってみましょう。前と同じように、どうか七日の間、決して中を覗かないで下さい」 といいおいて、機織場にこもったと。 そしてまた、キッコバタン、キッコバタンという機を織るおさの音が鳴りつづけた。 七日目、若者は、 「糸も無しに、どうやってあんなきれいな錦を織るのだろう」と思うと、中を見たくて見たくてたまらなくなった。それで、そおっと機織場の中を覗いてみた。 そしたらなんと、そこには嫁ごの姿はなく、一羽の鶴が己れの羽を一本抜いては織りこみ、また一本羽を抜いては織りこんでいた。もうほとんど抜くべき羽もなく、全身赤むけだった。 間もなく嫁ごは、ひどくやつれて機織場から出てきた。若者の前に錦を差し出し、 「よやくこの錦を織りあげました。ですが、あれだけ約束したのにあなたは覗いてしまいました。わたしの正体を見られたからには、もうここにはおられません。わたしは以前、あなたに助けてもらった鶴です。ご恩返しをしよう、優しいあなたのお側にいたい、ふたつのおもいで人間に化身(けしん)しておりました。短い間でしたが、たのしい毎日でした。」 というと、家の外へ出て行った。一声大きく、 「カウ」 と鳴いたら、どこからともなく、たくさんの鶴が飛んできて、嫁ごの鶴を包みこむようにして空へ舞い上り、はるかかなたへ飛び去っていったと。 いちごさけぇた なべの下ガリガリ。
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3-33『冬(ふゆ)の夜(よ)ばなし 「雪ばば」と「子とろ」』
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2011-11-22
3-33『冬(ふゆ)の夜(よ)ばなし 「雪ばば」と「子とろ」』 ―秋田県― (『雪ばば』) 昔、あったおもな。 冬なってナ、雪コうんと降るどき、わらしコ達(だ)泣けば、雪ばばおりてくるど。 してナ、 「小豆(あずき)コ煮(に)えだが、煮えだかよ。 庖丁(ほうぢよ)コ研(と)けだが、研げたかよ。」 ってナ、まわって歩(あ)りって、泣いでるわらしコ達居(え)れば、連れで行がれるど。 ンだがら、おみや達泣かれねっや。 とっぴんぱらりのぷう。 ン、まだ語れってか。 ンだら、もひとつだけだゾ。 あんまし語っと、天井からネズミに小便(しょんべん)ひっかけられっからナ。 (『子とろ』) 昔、あったおもな。 夜 なってナ、雪コの降る音が聞こえるようなどき、いつまでも寝ねェでるわらしコ達いたら、山がら、子盗(こと)ろ、おりてくるど。 してナ、 「子とろ 子とろ 寝ね子は いねがあ 子とろ 子とろ 寝ね子は いねがあ」 ってナ、まわって歩りって、寝ねェわらしコ達居れば、窓がら毛むくじゃらの腕ェ延びできで、つかめェられで、連れで行かれるど。 ンだがら、おみや達、早よ寝ろじゃ。 とっぴんぱらりのぷう。
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