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36『黒姫物語(くろひめものがたり)』
2011년 11월 10일 22시 05분
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작성자: 망향
36 『黒姫物語(くろひめものがたり)』
―長野県―
昔、信濃(しなの)の国(くに)に黒姫(くろひめ)という大そう美しい姫がおったそうな。うわさを聞いては遠い国からも姫を嫁にという話があとをたたんかったと。
ある秋の日、殿様が黒姫をつれて菊見(きくみ)の野立(のだ)てをしていたら、山奥(やまおく)の大沼池(おおぬまいけ)の主(ぬし)、黒竜(こくりゅう)がうわさに聞いたこの美しい姫を一度見たいと思って、蝶(ちょう)に化けてひらひら、姫のまわりを舞い飛んだそうな。
「まあ きれい」
姫は、さもうれしそうにほほえみかけてくれたと。
さあ、それからというもの、黒竜は、姫が忘れられなくなった。
幾晩(いくばん)も幾晩も思い焦(こが)れたあげく、若侍(わかざむらい)に化(ば)けて城を訪(おとず)れた。
今までに会った誰よりも立派な若侍ふりに殿様が身元(みもと)をたずねると、
「私(わたくし)は、志賀山(しがやま)の大沼池の主、黒竜です。姫を一目見て以来(いらい)忘れられませぬ。どうか姫を私に下さい」
という。
いくら立派でも人間(にんげん)でもないものに姫はやれん。殿様は、きっぱり断(こと)わったそうな。
ところが黒竜はあきらめきれずに、毎日、城へ通うようになった。
ひと月たち、ふた月たち、やがて百日目のこと。城へやってきた黒竜は、殿様へいったそうな。
「もし姫をいただけるなら、あらゆる災(わざわい)からこの城を守りましょう。が、だめだというのなら、大水(おおみず)で城と村々(むらむら)を流すことも私には出来るのです」
殿様はこれには困った。黒竜の怖さを知っているだけに考えに考えた。
「あす、その姿のままわしの馬に遅れずに城のまわりを二十回まわれたら、姫をやろう」
と約束をした。
黒竜が喜んで帰ると、殿様はすぐに家来(けらい)に命じて城のまわりに刀を逆植(さかうえ)させた。
次の日、殿様は馬にまたがり、
「黒竜、よいか」
というや馬にひとむちあてた。馬は勢いよく駆(か)け出した。
黒竜は、「おう」といって負けじと後を追った。
馬は刀を逆植したところは飛び越えて駆けた。そんなこととはしらぬ黒竜は、たちまち傷ついた。
「うぬ、計(はか)ったなぁ」
というやいなや、怒(いかり)でたちまち本性(ほんしょう)をあらわし、世にも恐(おそろ)しい竜となって馬を追った。
が、ひとまわりするたびに傷つき血まみれとなりながらも馬を追い続けて、ついに遅れずに城のまわりを回ったそうな。
「さあ、約束です、姫を下さい」
息も絶(た)え絶(だ)えに黒竜がいうと、殿様は刀を抜いて、
「お前のような化け物に姫はやれぬ。帰れ」
と、今にも切りつけんばかり。
「裏切ったな、見ておれ」
そう叫ぶと、あっという間に空へ飛んで行ってしもうたそうな。
さあ、その夜(よる)から激(はげ)しい嵐となった。大風(おおかぜ)は吹く、大雨(おおあめ)は降る。三日も四日も嵐は続いた。川からあふれ出た水で、村々は今にも流されんばかり。
これを見た黒姫は、殿が止(と)めるのも聞かず外(そと)へ走り出ると空に向って叫んだ。
「黒竜よ、私はあなたのもとへ行きます。どうか嵐と鎮(しず)めて下さい」
すると、どうじゃ、あれだけ激しかった嵐がピタッと止み、空から一筋の黒雲が矢のように走り下りて、去った時には、黒姫の姿は、どこにも見あたらなかったそうな。
姫は二度と戻っては来なかったが、それ以来、村には何ひとつ災が起らなくなったという人々はいつしか黒竜が黒姫を連れ去った方角(ほうがく)にある山を黒姫山と呼んで、こんな話を今に語り伝えている。
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