2-15『湖山長者(こやまちょうじゃ)』
―鳥取県―
むかし、因幡(いなば)の国(くに)、今の鳥取県に湖山長者という大層欲深かな長者がおったと。
長者の田んぼは千町もあって、その田んぼを一日で植えるしきたりだったと。
今日が田植えという日、夜も明けぬうちから、広々とした田んぼに数えきれんほどの早乙女(さおとめ)たちがずらぁっと並んで、いっせいに植えはじめる。そりゃぁ見事なながめだったと。
ところが、ある年の田植えの日のこと。
昼時(ひるどき)に、一匹の猿が子猿をさかさまに背負うて、山から下りて来た。
それを見つけた早乙女たちが、
「あれ、猿が赤ん坊を逆さに」
「ほんに、今にも落っこちそうな」
「あれ、落ちた」
「可愛いいなぁ」
と、口々にキャー、キャーはやしたてはじめた。
すると、近くの田、遠くの田、どの田の早乙女たちも、どの田の早乙女たちも、
「何だ、何だ」
と、田植えの手をやすめて、猿を見ようとした。
このありさまに、おどろいたのは湖山長者だ。
長者屋敷の高殿(たかどの)から、
「なにをしているのや、手を休めるな」
と大声でどなった。
早乙女たちは、あわてて田に戻ったが、大勢が一せいに手を休めたもので、その日は日暮れになっても千町の田んぼを植えおわることは出来そうになかった。
日は、はや、西の山に沈もうとしていた。
長者は、赤くなったり、青くなったりしてどなり散らした。
が、どうしても日の暮れるまでに終わらないと分かると、
「ようし、こうなればお天道(てんと)さんに戻ってもらうよりしょうないわい。なんの、日の出の勢いのこの湖山長者に出けんことあるかい」
そういうと、高殿に立って、さっと金の扇をひらき、お天道さんを三度(みたび)、大きく招きかえしたそうな。
するとどうだ、西の山に沈もうとしていたお天道さんが、つっつっと糸にひかれるように、もういちど、天に戻ったそうな。
「それ、この間(ま)に苗を植えろ。一枚の田も残すな」
長者は叫びたてたと。
早乙女たちは、わき目もせずに植えていった。
そうして、ようやく田植えが終わったとき、それに合わせるように日が沈んだと。
さあ、近郷(きんごう)はもうより遠国(おんごく)にまでこの話は伝わった。
「入り日も招きかえす勢いとは、このことやで」
と、長者は大きな盃(さかずき)をかたむけて、上機嫌だったと。
次の朝、
長者は目を覚ますと、一面に緑の苗にうまった我が田を見ようと、高殿へのぼった。
のぼってみて驚ろいた。
「あっ」
と叫んだまま、言葉が出ない。
なんと、一夜のうちに、見渡すかぎりの田んぼは、池になっておった。
そして、やがて長者屋敷も湖山長者も池の中へ沈んでしもうたそうな。
この池を湖山池という。
むかしこっぽり ごんぼの葉。
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