3-2『目上(めうえ)の意見(いけん)と茄子(なす)の花』
―山口県―
むかし、あるところにお寺があって、和尚(おしょう)さんと小僧さんが住んでおったと。
あるとき、小僧さんが修行(しゅぎょう)に出ることになったと。
小僧さんがお寺の門のところまで行ったらうしろから和尚さんが、
「小僧、小僧、ちょっと来い」
と呼んだ。小僧さんは、
「何でござりますか」
といって戻ると、和尚さんは、
「あののう、途(と)ちゅうでどねえなことがあっても、柱(はしら)のない家(いえ)に宿(やど)をとるなよ」
というた。
小僧さんは、柱のない家なんどがあるもんかい、と思うたが、和尚さんのいわれることなので、
「はい、よろしゅうござります」
と返じをして出かけた。また門まで行くと、
「小僧、小僧、ちょっと来い」
と呼ばれた。
「何でござりますか」
といって戻ると、和尚さんは、
「あののう、旅に出て宿をとったとき、亭主(ていしゅ)より女房(にょうぼう)の方が大事にしてくれる家にゃあ、気ぃつけよ」
というた。小僧さんが、
「はい、よろしゅうござります」
と返じをして門まで行くと、また、
「小僧、小僧、ちょっと来い」
と呼ばれた。
「何でござりますか」
といって戻ると、和尚さんは、
「あののう、ねずみが劫(こう)を経(へ)たらコウスイちゅうモノになって、人を捕(と)って喰(く)うてぃや」
というた。小僧さんは、
「はい、わかりました」
といって、やっとお寺を出て行ったと。
いくがいくがいって、峠道(とうげみち)を歩いていたらにわかに黒雲(くろくも)が湧(わ)いて大夕立(おおゆうだち)が降ってきた。
この先の道端(みちばた)に崖(がけ)の土(つち)をかき出した洞(ほら)があったので、おおあわてでその中に入って雨が止むのを待ったと。
なにげなく雨粒(あまつぶ)を見ていたら、ひょいと、和尚さんのいわれた「柱のない家に宿をとるな」とは、このことじゃろうかい、と気がついた。それで洞から出た。そのとたん、なんと、洞の天井(てんじょう)の土がドサンとくずれ落ちた。
小僧さんはあぶないところを助かったと。
また、いくがいくがいくと日が暮れてきた。小僧さんは、野中(のなか)の一軒家(いっけんや)に泊めてもらったと。
その家(や)の女房は、風呂をわかしてくれたり、ごちそうしてくれたり、かいがいしく世話をやいてくれたと。が、亭主は囲炉裏(いろり)にあたっているばかりで、小僧さんをあまり見ないようにしているふうだ。
小僧さんは、和尚さんのいわれた、「亭主より女房の方が大事にしてくれる家にゃあ、気ぃつけよ」とは、この家のことかな、と思い気をつけることにしたと。
小僧さんが布団(ふとん)に入り、ひょいと天井を見ると、天井板にふし穴のような穴があった。ちょうど自分の胸の上のあたりだ。
「ありゃぁ何(なん)の穴じゃろうか。どうも変だ」
と、布団の中に枕を入れて人形(ひとがた)をつくり、自分は押入れに入って様子をうかがっていたと。
すると真夜中に、その穴から槍(やり)がおりてきて、布団を突きさした。
小僧さんはあぶないところを助かったと。
次の日もいくがいくがいくと、日が暮れた。
小僧さんは一軒のやぶれ寺を見つけて、その晩はそこに寝たと。
ところが、真夜中になって、天井をガタガタいわせて何かが出てくる気配(けはい)だ。
小僧さんは、こりゃぁ和尚さんのいわれたコウスイちゅうもんじゃろうか、と思い、コウスイならねずみの劫を経たモノだから、猫をおそろしがるにちがいない、と思案して、
「にゃお、にゃお」
と猫のなき声をした。
すると、案の定、今まで天井をガタガタさせていたモノが、どこかへ行ってしまった。
小僧さんは、和尚さんの言われた言葉で、三度まであぶないところを助かったと。
”目上(めうえ)の意見(いけん)と茄子(なすび)の花(はな)は千に一(ひと)つも仇(あだ)がない”というてな、親や年寄りのいうことは、きちんと聴(き)くもんだ。
これきりべったり、ひらの蓋(ふた)。
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