3-41『爺(じい)か神(かみ)か』
―広島県甲奴郡―
昔、あるところにお爺さんとお婆さんがおったそうな。
あるとき、お爺さんが山へ木ィ挽(ひ)きに行ったと。
朝まから木をゴリゴリ、ゴリゴリ挽きおったら、のどがかわいた。
「こりゃあ、のどが干(ひ)いてかなわんけ」
言うて、谷へ下りて、そけえ流れる水を呑もう思うたら、そりゃぁ水で無(の)うて、酒じゃったと。
お爺さん、腰に下げとったひょうたんに、その酒を入れ、その酒を呑み呑みしておったら、酔うたと。
大きな岩の上へ大の字になって、金玉ァ出ゃぁて寝てしもうた。
そうしてたところが、そこへ夕方になってどやどや、どやどや、山のもんがやって来て、長い竹棹(たけざお)を持って、
「そこへおるんは、爺か神さんか、爺か神さんか」
言うて、金玉つつくんだと。
金玉つつかれて爺は目を覚ましたと。
覚ましたは覚ましたけど、
「どうもおかしいのぉ」
思うて、様子をうかがうのにじいっとしておった。そしたら、また、
「そこへおるんは、爺か神さんか」
言うて、長い竹棹で遠くから爺の金玉つついてきた。爺はおかしゅうても黙っておったと。
そしたら、山のもんたちゃぁ、たがいにうなずきおうて、
「まぁ、これは神さんじゃ」
言うて、山の幸を仰山(ぎょうさん)持って来て、供(そな)えたそうな。
山のもんがおらんようなってから爺さんは、仰山のお供えを持って家に戻ったと。
隣りの爺さんや婆さんも呼んでご馳走したと。ひょうたんの酒もふるまって、ご馳走も食べ、
「面白(おもしれ)ェな、面白ェな」
言うていたら、隣りの婆が、
「うちも。こんな酒や山の幸が欲しい」
言うた。
次の日、隣りの爺さんが真似をして山へ木ィ挽きに行こうとしたら、婆さんが、
「樽を持って行きんさい、酒を持ってくるんさかい」
言うて、大きな樽を持たした。
隣りの爺さん、山へ行って、木をゴーリとひと挽きしただけで、そこらへんに腰を下ろしとった。昼どきになってものどがちっとも干(ひ)んのだと。
そんでも、まあ、谷の酒を取りィ行かないけん思うて、樽をかついで谷へ下りて行ったと。
そけえ流れる酒を呑もう思うたら、そりゃぁ酒で無(の)うて、水じゃったと。
「あの爺ィ、嘘ォついたなやぁ。水じゃ酔いやせんわい」
言うて、岩の上で金玉ァ出して、ふて寝したと。
そうしてたところが、夕方になって、どやどや、どやどや、山のもんがやって来た。
長い竹棹を持って、
「そこへおるんは、爺か神さんか。爺か神さんか」
言うて、金玉つつくんだと。
隣りの爺、金玉つつかれて目を覚ました。
覚ましたら、つつかれるたんび、金玉が痛いやら、こそばゆいやら、おかしゅうてかなわん。思わず、
「クックックッ」
言うて笑(わろ)うたと。そしたら、
「やっぱりこれは神さんじゃない。昨日の爺も神さんじゃない」
言うて、隣りの爺におそいかかったと。
隣りの爺、命あってこその大怪我して戻ったそうな。
昔こっぷり。
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