3-49『こぶとり爺(じい)さん』
―岩手県上閉伊郡―
昔、むかし、あるところに額(ひたい)に拳(こぶし)ほどの瘤(こぶ)のある爺さまが二人あったと。
二人の爺さまは瘤がみっともないから取ってもらおうと思い、山奥のお宮に詣(まい)って、神様に願(がん)かけの為に夜(よる)ごもりをしていたと。
あるとき、真夜中ごろになって、遠くの方から笛や太鼓のはやしの音が聞こえてきた。
こんな夜の夜中に、何事だろうと思っていたら、その音が段々に近ずいて、鳥居のところまでやってきている。
とれれ とれれ
とひゃら とひゃら
すととん すととん
と、天狗どもははやしている。が、はやしばかりで舞い手が居ない。
「お前、舞え」
「いや、お前が舞え」
と、互いに舞いをすすめるが、どうもこの中には舞いの出来るものが居ないらしい。
一人の天狗がいまいましそうに「ちぇ」といって片わらを見たとたんに、隠れていた二人の爺さまが見つかったと。
「何だ、人間の爺どもがいたぞ。お前たち舞いを舞ってくれ」
といって、手前の爺さまの袖を引っ張って、みんなの前へ突き出したと。
その爺さま、はじめは怖くてふるえていたが、興(きょう)に乗って踊り出した。
くるみはぱっぱ ぱあくずく
おさなきゃぁつの おっかっかぁの
ちゃるるう すってんがあ
と、三度くり返して歌いながら、舞ったと。
天狗どもは大層喜んで、手を叩いて誉めたと。
「せかっくの好(よ)い舞だが、どうも、お前の額の瘤が目ざわりだ。面の造りがよく見えないな。どれ、その瘤をとってやろう」
といいながら、天狗は爺さまの額の瘤を取ってしまったと。
爺さまは、急に頭が軽くなって、大喜びで引きさがった。
その次に、もう一人の爺さまが、丸座(まるざ)の真ん中に引き出された。
「こんどはお前だ。楽しく舞えよ」
といって、天狗どもは、
とれれ とれれ
とひゃら とひゃら
すととん すととん
と、はやしはじめた。が、この爺さま、天狗があまりに怖くて、身体(からだ)がふるえて、膝(ひざ)がガクガクだったと。
それでもせきたてられて、仕方なく、
ふるきり ふるきり ふるえんざあ
こおさま(小雨)の降るときは いかにさみしや
かららんとも すってんがあ
と、歌いながら踊った。けれども、声がふるえて、歯もガチガチいうて合うてないし、おまけに調子も低かった。
陽気好きの天狗どもはいやな顔をして、
「もう少し、元気よくやってくれ」
というた。
爺さまは、そう言われるといよいよ縮み上がって、とうとう立っていられなくなった。尻餅(しりもち)ついて、泣き出したと。天狗どもは、
「臆病にもほどがある。せっかくの面白い舞いも、泣きつぶされてしまった。お前のような爺には、二度と会いたくない。さあ、この瘤でも持って帰れ」
いうて、先(さっき)、もう一人の爺さまから取った瘤を、この爺さまの鼻の上に投げつけた。
爺さま、びっくりして鼻の上をこすってみると、額にあった瘤に加えてもうひとつ鼻に瘤が出来てあった。
この爺さま、二目と見られない顔になったと。
どんとはらい。
[필수입력] 닉네임
[필수입력] 인증코드 왼쪽 박스안에 표시된 수자를 정확히 입력하세요.