2-52『蛙聟(かえるむこ)』
―岩手県江刺郡―
むかし、あるところに爺さんと婆さんが暮らしていたと。
子供がなかったので、何をするにも張り合いがない。
それで、毎朝毎晩、畑の行き帰りに道端のお堂の観音様へ掌(て)を合わせては、
「人並みの子でなくてもいい、蛙のような子でもいいから、自分の子と名のつくものを授けて下され」
と願をかけていたと。
そしたら、婆さんのお腹が大きくなって、やがて、赤子が生まれたと。
生まれたは生まれたが、それが、蛙のような顔形の赤子であったと。
爺さんと婆さんは、喜ぶやな嘆くやら。それでも、願をかけて神様から授かったのだから言うて、てんてこ舞いしながら、なめるように育てたと。
子供はぐんぐん大きく育って、はや、年頃になったと。
爺さんと婆さんは蛙息子に嫁ごを迎えようとして、方々(方々)探したが、こんな顔形だから誰も来てはなかったと。
そしたらある日、蛙息子が、
「これから嫁ご探しに出かけますから、蕎麦(そば)の粉を一袋下さい」
というて、蕎麦の粉一袋をもって出掛けていったと。
いくがいくがいくと、ある村に大分限者の家があって、そこには、きれいな姉と妹の娘がいた。蛙息子は、
「ここのがええ」
というて訪ねて行き、泊めてもらったと。
そして真夜中になってみんなが眠ったころ、蛙息子ひとり起き出て、姉娘の寝ている所へそっと忍び入り、蕎麦の粉を姉娘の口のまわりに塗りつけ、袋をその枕元に置いて来たと。
さてと次の朝、蛙息子は早起きして分限者に向かって、
「朝ご飯を食べようとしてみたら、寝るとき自分の枕元に置いといた蕎麦の粉が無くなっていた。きっと、ここの娘のどちらかが物珍しくて食ったにちがいない」
と騒ぎたてた。分限者は、
「わしの娘にかぎって、そんなことはない」
というけれども蛙息子は聞かない。
「もし食っていたらどうするか」
「もしそうなら、お前のいいようにしていい」
「それじゃ、俺の嫁ごにするがいいか」
「娘が本当に盗ったのなら、この家の恥になるから家には置けない。勝手に連れて行くがいい」
分限者と蛙息子は姉妹の寝ている座敷に行ってみることになったと。
そうしたところが、姉妹の枕元には袋があり、口のまわりには蕎麦の粉がいっぱいくっついている。
姉娘は身に覚えのないことだが、確かに枕元には蕎麦の袋があり、口には粉がついているので、どうにも言い訳出来ないのだと。
「でも・・・でも・・・私、食べてないもん・・・」
と泣きながら訴えるけれども蛙息は聞かない。
「約束通り、俺の嫁ごに連れて行く」
と蛙息子が言うと、分限者も、
「ふびんだが、盗みをするような娘はわしの娘とは思わん。この男は顔形はよくないがこれもお前の身の定めじゃろう。一緒に出て行きなさい」
というた。姉娘は、親が決めたのなら仕方ないと、泣く泣く蛙息子と連れ立って家を出たと。
家に帰り着くと、爺さんと婆さんは、三国一の嫁ごだいうて大喜びして迎えてくれたと。
祝言のかための杯を交わしたら、姉娘はいよいよ仕方ないと諦めたと。
そしたら蛙息子が火吹竹を持って来て、
「これで俺の背中を思いっきり叩いてくれ、竹が割れるほど打ちすえてくれ」
というた。
姉娘は、いっそ打ち殺してやりたいと思って、力をこめて、何度も何度も叩いたと。
そしたらなんと、醜(みにく)かった蛙息子が「ぐわっ」とひと声ほえて、たちまち三国一の景色のいい男に変ったと。そして、
「今まで蛙のような姿だったが、俺は神の授け子で、これが本当の姿だ」
というたと。
爺さんと婆さんは、三国一(さんごくいち)の蛙聟(かえるむこ)と三国一の嫁ごを持って、一生安楽に暮らしたと。こりぎりぞ。
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