3-19『皿盛り山(さらもりやま)』
―兵庫県―
むかしむかし、伯耆(ほうき)の国(くに)、今の鳥取県(とっとりけん)の御領内(ごりょうない)のある山の中に、一軒の家(いえ)があった。
山家(やまが)なので貧しくはあったが、父と母と小(こ)んまい娘とが睦(むつ)まじく暮らしておった。
ところが、母親は急の病(やまい)であっけなく死んでしもうたと。
父親は小んまい娘をかかえて、何にかににつけて困ることが多くなった。
同じ頃、麓(ふもと)の村にも、夫を亡くした女房がもっと小んまい娘をかかえて途方に暮れていた。
おたがい困っちる者同士じゃ、ゆうて、仲立ちする人がいて、その女房と娘をこの山家に迎え入れたと。
山家の小んまい娘は、もっと小んまい妹が出来たのを喜んだ。
寂しい山家に、新(あた)らしい暮らしが始まった。
そうして、二人の娘が育つにつれて、継子である姉娘(あねむすめ)にはつらい日々になっていった。
継母は継子の姉にはきつい仕事を言いつけ、実の娘の妹には楽な用事をさせるようになった。それでも姉娘は継母によく仕(つか)え、妹にはいつも優しかったと。
二人は年頃の娘になった。
ある日、お城の若様が家来を連れて狩に来て、この山家でひと休みされた。
継母は、実の娘の妹に一張羅(いっちょうら)の着物を着せて、若様にお茶を持って行かせ、継子の姉には汚れた仕事着のまま、家来衆にお茶を出させた。
若様と家来衆は「馳走(ちそう)になった」いうて、お城へ帰られたと。
それからしばらくして、お城からお遣いの立派な侍衆がこの山家に来て、
「姉娘を若殿様の奥方に迎えたい」
というた。
びっくりした継母は、すぐに実の娘の妹を着飾らして、
「これがお望みの姉娘です」
というて、出した。
見ると、母親に似て、器量も悪いし、意地悪そうな顔をしているから、すぐに嘘を見抜いた。
「あ、いやいや、これは失礼つかまつった。あらためて妹娘の方を」
というたら、継母は、
「あれは、ぐずで気がきかずだ」
というて、むずかるふうだ。
遣いの侍は、「では、こうしよう」というて、かまどから塩瓶(しおがめ)を持って来て、お盆の上に皿を乗せ、皿の上に塩を盛り、その上に松の小枝を挿(さ)した。
「これを見て、歌を一首作ってもらう。その上でどちらの娘か決めよう」
継母はいやとは言えない。継子の姉も呼んだと。
遣いの侍が姉娘を見ると、器量もいいし、気立てもよさげだし、その上賢そうだ。一目見て、若殿様が見染めるのもむりがない、とうなったと。
「まずは、そなたから」
と、実の娘の妹にうながすと、妹は、しばらく考えて、
「盆の上に皿、皿の上に塩、塩の上に松」
というた。
「次は、そなた」
と、継子の姉をうながすと、姉は、
「盆皿(ぼんさら)や 皿(さら)盛(も)り山(やま)に雪ふりて 雪を根として そだつ松かな」
と、詠んだ。遣いの侍は、
「こちらを奥方にお迎えする」
というて、継子の姉を駕籠(かご)に乗せて、早や、立ち去りかけたと。
あてがはずれて怒った継母が、門口(かどぐち)に置いてあった箒(ほうき)を取って駕籠めがけて投げつけたら、駕籠の中から姉が、
「いつまでも 親というのはありがたや 伯耆(ほうき)の国まで みなもろた」
と、歌詠みしたと。
遣いの侍は「勝負あった」いうて、カラカラ笑うた。
継子の姉は、伯耆の国の若殿様の奥方になって、一生安楽に暮らしたと。
そうだといや。
[필수입력] 닉네임
[필수입력] 인증코드 왼쪽 박스안에 표시된 수자를 정확히 입력하세요.