3-55『住持(じゅうじ)の夜遊(よあそ)び』
―島根県―
昔、ある山寺に住持と小僧さんとが住んであったと。
お坊さんは、昔は女房を持つことが出来んかったので、里(さと)に、こっそりと女房をこしらえる人が多かったと。
この住持も里に女房をこしらえていたと。
夜になると住持は里へ下りて行く。すると、山寺には小僧さんひとりっきりだ。小僧さんはたかだか十歳位だったと。
山寺の夜は真っ暗闇につつまれる。そんななかで小僧さんひとりっきり。周囲(まわり)の森が風でざわめくだけで不気味なのに、フクローがホホー、ホホーと啼(な)き、狼の遠吠えがかすかに聞こえてこようものなら、小僧さんは、両耳を手でふさいで布団のなかで縮こまっていたと。
夜があまりにさみしくて恐ろしいものだから、ある夜、小僧さんは硯(すずり)を出して書きものをした。半紙に書いたのは、漢数字の一二三四(し)五六七(しち)八九十だけ。それを住持の文机(ふづくえ)の上に置いたと。
翌朝住持が帰ってきて見つけたと。
「小僧、小僧。夜さりに誰ぞ来たか」
「いいえ、誰れも来やせんです」
「ここに、一二三四五六七八九十と書いたのがあるが」
「はい、そうですか」
「ほんに誰ぞも来んかったか」
「はい」
「では、これはわれ(お前)が書いたのだな」
「いえ、わたしは知りません」
「では、われの知らぬ間(ま)に誰ぞが来て、書いて置いて行ったのだろうなぁ」
「なんて書いて行ったのでしょう」
「さあ、どうも判(はん)じものらしいが、何と判じたらよいのやら。わしにはさっぱり判(わか)らん。近頃、めっぽう賢くなったわれなら読めるかも知れん。ちょいと判じてくれんか」
小僧さん、住持に誉められてうれしくなった。昨夜書いた半紙を受け取り、
「これは、こう読むのです。
ひと(一)りに知れ、ふた(二)りに知れりゃ、さん(三)ざんいう。知(し)れちゃ仕方ない、業(ごう)(五)をわかす。業をわかせばろく(六)なことにならん。質(七)屋の八(八)兵衛さんの娘にほれくさり、苦(九)労すんなよ。この住(十)持のばかたれ」
ととくいげに判じあげた。そのとたん、ピシャリッと頭を叩かれた。
「われに判じ上げられたということは、つまりだ、われが書いた、ちゅうことだろが」
と叱かられたと。住持はすっかりお見透しであった。
けっちりこ。
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