3-54『もんじゃの吉(きち)』
―岩手県(紫波郡)―
昔、あったと。
もんじゃ(茂沢)の吉は長者どのの家で嫁こを探しているということを聞いた。
野っ原の方に歩いて行くと、狐が化けくらべをしているのに出会った。
「やぁ、狐どの、狐どの。お前たちは何をしている」
と声をかけた。狐はびっくりして、
「誰れかと思ったら、吉さんか」
というた。もんじゃの吉は、
「ときに、長者どのでは嫁コをさがしているっちゅうから、お前(め)たちの仲間で化けてくれんか」
と頼んだ。狐たちは、
「油揚(あぶらあ)げと小豆飯(あずきめし)を持ってくればぞうさもねえこった」
というた。
そこで、もんじゃの吉は、長者どのさ行って嫁コを世話する話をまとめたと。口(くち)きき料にたんまりお礼をもらったと。
そして、油揚げと小豆飯を買(こ)うて、狐のところへ行った。
「いついっかに、人数は三十人ばかりと馬ひと手綱(たずな)七頭の嫁取りに化けてけろ」
「あい、わかった」
と約束が出来たと。
いよいよ嫁取りの日。
長者どのではすっかり用意をととのえて待っていたが、時刻になってもなかなか嫁こが見えないので待ちあぐんでいたと。
夜まになって、ようやく野っ原の方に提灯(ちょうちん)が三十ばかりちらちら見えたと。
ほどなくして、仲人の吉が先に立って、化粧馬(けしょううま)だの、箪笥(たんす)長持(ながもち)からいろいろな道具(どうぐ)担(かつ)ぎだの従(した)えて、ざんぐぶんぐと嫁取りの行列が長者どのの屋敷さやってきた。
屋敷門(やしきもん)の前(まえ)で、送りの言葉やら迎えの言葉がかわされ、もんじゃの吉は提灯を一人一人から受け取って、縁側の天井にずらりと釣るした。
祝言がはじまり、大(おお)屋敷では、ご馳走酒盛りだと。呑め歌え踊れと盛り上がって、やがて祝儀事(しゅうぎごと)も終りになり、仲人の吉は帰り、お客人(きゃくじん)たちも帰る者は帰り、泊まる者は泊まったと。
次の朝になって、長者どのが縁側の戸を開けると、天井から頭にぶつかるものがあった。
「痛て」
というて見あげたら、馬の骨が三十もぶら下がっていた。
はてな、と思ってその辺(あた)りを見ると、縁側の板の上に狐の足跡がついている。いよいよけげんに思って家内(いえうち)の者(もの)を起こして調べさせたと。
そしたらなんと、家の中(なか)じゅう狐の足形(あしがた)だらけだ。あわてて座敷に行ってみたら、泊まったはずのお客人も一人も居なくなっていたと。
もしかしたら、と思って、嫁コの床(とこ)を見ると、これまた様子が変だ。夜着(よぎ)をはぐって見たら、なんと、なんと、嫁ではなくて、古狐が床のなかで丸くなって眠っていた。
「こんちくしょう」
というて、若い衆が取り押さえようとしたら、びっくりした古狐がはね起きて、障子をけ破って逃げて行ったと。
長者どのは、ようやく、もんじゃの吉にだまされたと気付いたと。長者は怒りに怒って、
「吉をひっとらえて来い」
というた。
若い衆が吉の家へ行くと、お袋(ふくろ)が一人いて、
「おら方(ほ)の吉は、他所(よそ)さ馬喰(ばくろう)に行って、今日で何日にもなるが、まだ帰って来(き)もさん」
というた。若い衆は、気勢(きせい)をそがれて、もそらもそら帰ったと。
それから四、五日経った頃、長者どのの座敷の前を、やせ馬曳いたもんじゃの吉が通った。唄なんぞ唄って、いい気なもんだ。
長者どのが呼び止めて、嫁とりのことを糺(ただ)すと、もんじゃの吉は、
「このところ俺は、奥(おく)の方(ほう)さ馬喰に行っていた。今帰ってきたばかりだもの、嫁取りだの、狐だの、俺が何で知るや。おおかた、その吉とやらも狐の仕業(しわざ)だろうさ」
と、すぽーんとした顔をして言うたと。
それっきり。どっとはらい。
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