2-26『錦絵(にしきえ)の姉(あね)さま』
―青森県―
むかし、あるところに貧乏な婆(ばあ)さまと伜(せがれ)が住んでおったと。伜がその日その日の手間取りに歩いて、わずかな手間賃をもらって暮らしておったと。
ところがそのうちに婆さまが寄る年波に勝てずに死んでしもうた。
そうしたら、伜は、食事の仕度や、洗濯や、何事につけても不自由この上ない。
嫁をもらいたくても金は無し、わびしい一人住いをしておった。
あるとき、手間取りに行った家の庭に、きれいな姉さまを画いた錦絵が落ちていた。伜はそれを拾うて来て、家の壁に貼った。
そして、仕事から戻ると、その日一日の出来事を錦絵の姉さまに、まるで生きている人に話すように語って聞かせていたと。
ある日のこと、伜が夜になって戻ったら、家の中はきれいに掃除がしてあった。囲炉裏には火がおきて、湯が沸いている。食事の仕度も出来ていて食べるだけになっていたと。
「はて、いってぇ誰がしてくれたやら」
不思議に思いながらも、その日は食べた。食べながら、壁の錦絵の姉さまに語りかけたと。
「お前(め)はいつ見てもきれいだなや。お前みていな嫁はとっても望むことも出来ないが、仕事から帰って来て、今日みていに家の中が温(ぬく)もっていると、おら、お前と夫婦になったような気分だ。はい、おごっつぉぅさん」
その夜は気分よく眠ったと。
ところが、次の日も、その次の日も、来る日くる日が家の中がきれいになってご飯の仕度が出来ている。
伜は、これはきちんと会って礼を言わなくてはならん、もし村の娘ならば嫁に来てくれろというつもりで、二階に隠れて様子を見ることにしたと。
そしたら丁度昼頃になって、家の中に一人の美しい姉さまが立っておらした。
伜は、はっとして目をこらしていると、姉さまはタスキをかけて、そこここを片づけしたり、掃いたり拭いたりした。それが終わると、囲炉裏に火を焚いて鍋に湯を沸かし始めたと。
伜が二階から下に飛びおりたら、そのひょうしに姉さまはふんわり火に飛び入(い)って、ぼおっと燃えてしもうたと。
伜はびっくりして燃えかすをよく見ると、灰には絵姿らしき形が残っていた。
「はて、どっかで見た姿だな」
と首を傾(かし)げて、何げなく壁を見た。そしたらなんと、壁に貼ってある錦絵の、姉さまのところだけが真っ白になっておった。
錦絵の姉さまは、嫁のない伜を不憫(ふびん)に思って、絵から抜け出て家事仕事をしてくれていたのだと。
伜が飛び下りたあおり風のために、かわいそうに吹き飛ばされて焼けたんだと。
絵でも何でも、いつも語りかけていると魂が入るもんなんだと。
とっちぱれ。
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