2-35『塩吹(しおふ)き臼(うす)』
―山形県―
むかし、あったけど。
むかしあるところに爺と婆がおったと。
爺と婆には子供がなかったと。それで、村の鎮守様(ちんじゅさま)へ、
「子供を授けてくれろ」
と、お願いしていたら、ある日、鎮守様のお堂の前に捨て子が置かれてあったと。爺と婆は
「神様のお授け男子(やろっこ)だ」
と喜んで、その男子を拾うて育てたと。
男子は育って、やがて七(なな)つになったと。魚獲(と)りが好きで、毎日毎日、釣竿担いて浜辺通いだと。
ある日、男子が浜辺へ行ったら、一人の白いヒゲを生(は)やした老人に出会ったと。老人は、
「今日、お前が最初に釣った魚を向こうの岩のところで火に炙(あぶ)ってみよ。岩の中には編み笠を被(かぶ)った親指ほどの子供が千人いて、宝物を持っている。その魚を欲しがるから、そしたら穴の一番奥の宝と取り替えるがよい」というたと。
男子が釣り糸をたれたら、大っきな鯛(たい)が釣れたと。
老人に教わった岩の所へ行き、海辺から寄り木を集めて来て火を焚いて、串差しにした鯛を炙ったと。鯛がジクジクしてきたらその匂いを嗅ぎつけて、岩の割れ目から編笠を被った親指ほどの子供たちがゾロゾロ出て来て、千人みな集まったと。
「いい匂いだなあ」
「うんまそうだなあ」
「食いてぇなあ」
と、口々にいうて鯛を見上げている。男子は、
「一番奥の宝となら取り替えてもいいよ」
というたら、親指ほどの子供が、
「一番奥にあるのはだめだけど・・・」
というて、持って来たのが、桃色や赤色や青い色したサンゴだと。
「こんなのいらん。一番奥のがいい」
「一番奥のはあげられん」
というて、次に持って来たのが、金の粒がぎっしり入った皮袋だと。
「こんなのいらん、一番奥のでないとだめ」
そういうとるうちに火がどんどん燃えて、ますます鯛のいい香りがしてきたと。
そしたら、千人の親指ほどの子供たちは皆(みんな)で相談しおったが、とうとう、一番奥の宝物を多勢して運んで来たと。そして、
「これは二つとない宝の石臼だ。欲しい物をいいながら、右に三遍回せば何でも出てくる。止めるときには左に回して、「止まれ」といえばいい」
と、教えてくれたと。
男子は、宝の石臼を転がし転がし家へ帰ったと。爺と婆に話したら、
「ンでは早速試してみるか」
「ンだな。まず、晩餉(ばんげ)のまま出してみるか」
となって、婆が、
「米、出はれぇ」
というて右に三遍回したら、米がザクッと山ほど出たと。
「ありゃほんとだぁ。ンでは、止まれぇ」
というて、左に回したら、米の出るのが止まったと。
「味噌とおかず買う銭コ、出はれぇ」
とやったら、小判が山ほど出たと。
「はてはて、これは良ぇ物をもろて来た。鎮守様のお授けだ」
というて、爺と婆と男子は大喜びしたと。
あれも出し、これも出し、いっぺんに福々長者となって、村の衆を招(よ)ばっておふるまいしたと。そして、長者になった訳を語って聞かせたと。
そしたら、その晩、泥棒が入って、宝の石臼と、おふるまいの残りの赤マンマとボタモチを盗んで海へ逃げたと。
泥棒は舟を漕いで漕いで漕いだら、腹が減ったと。海の上で、盗んで来た赤マンマとボタモチをしこたま食べたら、塩っぱいものが欲しくなったと。それで、試すにちょうどいいと思って、
「塩、出はれ」
というて、宝の石臼をぐるぐる回したと。
そしたら出るは出るは。けど、泥棒の止め方を知らない。
「もういい、出るなぁ、止まれぇ」
泣きごというて、塩を手ですくっては投げすくっては投げしたけど塩の出るのに追いつかない。塩が舟の上に積りに積って、とうとう海の中へ沈んで行ったと。
海の水がしょっぱいのは、昔にこういうことがあって、今でもその宝の石臼が、海の底でゴロゴロ回っているからなんだと。
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