3-6『狐(きつね)の嫁入(よめい)りと爺(じ)ンちゃ』
―福島県―
むかし、福島県の浜通(はまどう)りにある村に、ひとりの爺(じ)ンちゃが住んであった。
お正月も近くなったある日、町へ買い物へ出かけたと。
その戻り道(みち)でのこと。
爺ンちゃは買いこんだいろんなものを背中に背負(しょ)い、片手に荒巻(あらまき)き鮭(じゃけ)をぶらさげ、もう片手に提灯(ちょうちん)を持って、ざとうころばしに差しかかった。左手は夏井川(なついがわ)で、右手は山の寂(さび)しいところになっており、昔、ざとうがよく転んだために、そう呼ばれるようになった所だ。
あたりはもう真っ暗、足元(あしもと)を照らす提灯のあかりをたよりに、ここからは、そろりそろり行かにゃぁ、と気を引き締(し)めたとき、うしろの方で何やら大勢(おおぜい)の人が来る気配(けはい)がした。
降り返えると、二丁ほど離(はな)れたところをたくさんの提灯が登ってくる。
どうやら嫁入(よめい)り行列のようだ。
「こんな時間に珍(めずら)しい。そうじゃ、あの人たちと一緒に行けば淋(さび)しいざとうころばしも賑(にぎ)やかに越すことが出来るわい。さて、一服つけて待つか」
というて、道の脇(わき)の土手(どて)に腰を下(お)ろし、塩鮭(しおじゃけ)を片わらに置いて、きせるの煙草(たばこ)を吸いはじめたと。
「うーん、なかなか美しい行列なもんだ。つのかくしをしているから、あれがお嫁さんかな。タンス、長持ちもある。豪勢(ごうせい)なもんだ」
と、行列をながめながら待っていたが、そのうち妙(みょう)なことに気がついた。いくら待ってもその提灯行列が、なかなかこっちに近づいてこんのだ。いつまで経っても、向こう二丁ぐらいのところを歩いている。道は一本しかないのに、これは奇妙だ。
「さては、あの行列は狐(きつね)の嫁入りかな。うかうかしていると、正月仕度(じたく)をとられてしまうわい」
と急いで立ち上がった。もいちど振り返ったら、提灯行列の灯(ひ)がすっかり消えて、真っ暗闇(くらやみ)になっておった。
「やっぱり狐の嫁入りであったか。早く気がついてよかったわい」
というて、ほっとして歩き出したと。
しばらく行くと、行く手に提灯の明かりが見えた。夜目(よめ)をすかして見ると、娘がひとり立ち止まって、爺ンちゃを待っているふうだ。
近づくと、娘は、
「どうも寂しくて困っていました。爺ンちゃ、どうか送って下さい」
という。
爺ンちゃは、淋しいざとうころばしを娘と行けるので心楽しく思い、二人連れだって行ったと。
ざとうころばしも無事に過ぎ、ほっとして、後ろからついてくる娘に、
「いま、狐の嫁入りを見た。いやぁきれいな行列じゃった」
と話しかけていると、行き手に、見なれない橋があった。
「はて、こんなところに橋があったかな」
といぶかりながら、その橋を渡ろうとして一歩踏(ふ)み出した。
そのとたん、橋は消え、爺ンちゃは、あっという間に川にはまってしまった。
荒巻き鮭と、若い娘は、どこかに消えてしまったと。
ざっとはらった。
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