3-7『貧乏神(びんぼうがみ)』
―兵庫県―
昔あるところに一人の貧乏(びんぼう)な男がおった。
男は、食う物ぁ食わんとっても、寝とる方がええというほど仕事嫌いだったと。
ある年の節分(せつぶん)の晩に、豆まきもせんと囲炉裏(いろり)の横で煎餅布団(せんべいぶとん)にくるまって寝ていると、天井裏(てんじょううら)から妙な者(もん)が降りて来た。片目を開けて見たら、病(や)みあがりのように痩(や)せ、髭(ひげ)は伸び放題(ほうだい)に伸び、頭ぁ箒(ほうき)のように逆立(さかだ)った人相(にんそう)の悪い年寄だ。
「お前は、何者だいや」
「儂(わし)ぁなげぇ間(あいだ)厄介(やっかい)になっとる貧乏神(びんぼうがみ)だ」
「何しい降りて来ただいや」
「うん、もうそろそろ暇(いとま)しよう思うてな」
「そうか、そりゃ結構だ。俺(おれ)もその方がありがてい。一刻(いっこく)も早う出ていってくれぇ」
男は寝たまんまで、
「起きるのもおっくうだから、戸はちゃんと閉(し)めてってくれえよ」
いうたら、貧乏神が戸口で振り返って、
「おう、忘れて出よった。まごう世話になった礼に、ええこと教えてやる。
明日の朝早うに、前の道ぃ出て待っとれ。宝物を積んだ馬が通る。
一番前(さき)の馬には金と銀を積んどる。
二番目の馬には、綾(あや)や錦(にしき)の織物が積まれ、
三番目の馬、これが終(しま)いじゃが、珊瑚(さんご)や瑪瑙(めのう)なんぞが積まれとる。
そのどれでもええ。棒で叩(たた)いたら、それぁお前の物になる。しっかりやれよ」
というて、戸を閉めて出て行ったと。
男は、そうゆうことなら明日ぁ早起きして、三つとも叩いてやろう。長い棒で横なぐりにした方が叩き易(やす)かろう、と思案しながら眠ったと。
朝方、まだうす暗いうちに目がさめた男は、もう起きにゃぁなるまえ、と思ったけど、いつもの怠(なま)け癖(くせ)でなかなか起きられん。それでも、
「あいつの言う通りなら、どれひとつなぐってもいっぺんに分限者(ぶげんしゃ)になれる。試(ため)してみるか」
いうて、しぶる身体をむりやり起こして、長い竿(さお)かついで家の前の道に出て待っとったと。
けど、一番先の馬ぁすでに駆け抜けたあとで、二番目の馬が走ってきた。男は、
「やぁ、本当に馬がかけてきたぞ。あいつの言う通りなら、あれが金銀の馬だな。ようし、そうれっ」
と、長い竿を振りまわした。竿の先が木の枝に引っ掛かって、馬はその下をくぐって走り抜けたと。
「やぁしまったぁ。竿が長過ぎたか」
いうて、今度(こんだ)ぁ短い竿を持って待っていると、三番目の馬が走って来た。
「よし、あれは綾や錦を積んどる馬だな。もう俺の物だ。え―い」
と、短い竿をぶんまわした。竿が短(みじこ)うて届かなかったと。
「やぁ、しまった。また、しくじった。竿が短過ぎたか」
と、くやしがって、今度ぁ、もう少し長い竿を持って待った。
また、馬が走って来るので、
「こいつが三番目の珊瑚や瑪瑙の馬だな。なにがなんでもぶちあてて分限者になってやる。そうれっ」
と、思いきり横なぐりにした。今度ぁ手ごたえがあった。
やれ嬉しや、と思ったら、その馬には昨晩(ゆんべ)の貧乏神が乗っとって、
「儂ぁ、今年ぁ他家(よそ)で暮らそうと思っとったに、また、厄介になる」
と、いうたと。
いっちこたあちこ。
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