3-9『曽呂利新左衛門(そろりしんざえもん)』
―山形県―
むかし、むかし、秀吉(ひでよし)の時代に新左衛門(しんざえもん)ていう刀の鞘師(さやし)いだったど。
新左衛門がこしらえる鞘は、刀がソロリ、ソロリと抜けて、まごとに具合(ぐあい)がええ。天下一の名人だていうなで、誰しも新左衛門のことを、曽呂利(そろり)、曽呂利、と呼ぶようになって、いつの間にか曽呂利新左衛門(そろりしんざえもん)と名がついだと。
あるどき、秀吉がひどく病気して、なんだか分らねんど、段々(だんだん)衰弱(すいじゃく)していぐ。
ほだえしているうち、盆栽(ぼんさい)の松の木、枯(か)れでしまった。ほうしたれば秀吉、なおさら気落(きお)ちしてしまって、
「余もこれきりだ、おしまいだ」
て、なげいで、日に日にやせ衰(おとろ)えて行った。
何とかええ医者どの居ねべか、何とかならねべか、ていうてるうちに、新左衛門が、ほこさ行って歌詠(うたよ)んだ。
御秘蔵(ごひぞう)の常盤(ときわ)の松(まつ)は枯(か)れにけり
千代(ちよ)の齢(よわい)を君(きみ)にゆずりて
こういうふうに詠んだ。ほうしたけぁ、秀吉、
「はあそうか、松の木はおれの身代りになって呉(け)だか」
て、ほだえして気分ええぐなってるうち、薄紙はぐようにだんだん良(え)ぐなった。ほしたけぁ、
「これ、新左衛門、なにかお前にお礼をしたい。望むものはないか」
「いやいや、上様(うえさま)、一か月間の一文(いちもん)の倍増(ばいまし)しで結構でございます」
「ああ、新左衛門、一文の倍増しとは、どういうことだ」
「はい、第一日目は一文、二日目は二文(にもん)、三日目は四文(よんもん)でございます」
「そうか、何だ、子供の小遣銭(こづかいせん)にもならねほどで、お前は満足するのか」
「いやいや、そうでないげんども、この位にさせて戴(いただ)きます」
「欲のない男だな。よし、んたらば」
ていうて、会計係さ命じて渡したど。
八日経(た)ったれば百二十八文になる。十日経ったれば五百十二文になった。二十日経ったれば五百二十貫二百八十八文になった。
「ありゃおかしい」
ていうわけで、会計係ソロバンはじいてみておどろいた。三十日になったら、何と馬車二十台で運ばんなねことになる。
「いやいや、こんではとても適(かな)わね。
新左衛門、新左衛門、余が参った。一ヶ月でねく、二十日間で、まず勘弁(かんべん)して呉ねが。ほのかわり、他(ほか)にもう少しお前さやっから」
「はい、結構でございます。んでは、他に戴かせてもらいます」
「何だ」
「袋さひとつ分、米頂戴(ちょうだい)したいげんど」
「おお、そんな、ええどこでない」
「んでは、四、五日後にもらいにあがりますから、お倉番さそういうふうに言うてで呉(け)らっしゃい」
ほうして、四、五日経ったら、馬車何台もと紙袋ひとつ持ってお城さ行った。袋ひろげで、
「このお倉の米、全部頂戴して帰ります」
て言うたれば、お倉番がぶっ魂消(たまげ)た。ほして秀吉のとこさ走って行った。
「実は新左衛門がやって来まして・・・」
「ああ、一袋ぐらい呉てやれ」
「いや、その、実は、その袋というのが、またどでかいもんで、すぱっとはぁ、倉さかぶせてしまったはぁ」
「うん、武士に二言(にごん)はない。その倉は新左衛門に渡せ。余の命なかったかも知れんと思えば、安いもんだ」
ていうわけで、銭五百二十貫二百八十八文と、倉ひとつの米、そっくりもらったけど。
どんびんからりん すっからりん。
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