3-12『一休(いっきゅう)さんと殿(との)さま』
―山形県―
一休和尚さんは、小僧さんのころからとても頓智(とんち)にたけたおひとだった。
まだほんの小僧さんなのに、大人(おとな)のけんかを頓智でまるくおさめたり、身分(みぶん)をかさにきていばっていたりしていると頓智でギャフンといわせたりするものだから、一休さんの人気はうなぎのぼりに高まったと。
評判が殿様の耳にもきこえた。
「最近、いい気になっているから困らせて呉(く)れよう」
というわけで、一休さん、殿様に呼ばれた。
お城にあがってみると、通された広間にはお侍たちがたくさんいて、その一番奥の一段高くなったところに殿様が坐(すわ)っていらした。
「おお、きたか。うむ、そちがうわさに聞く一休か。ああ、かしこまらなくてもいいぞ。そんなに遠くじゃ話が見えぬ。かまわんからそばに寄れ。よしよし、それでよい」
殿様、おつきの者がさし出した箱から何やらとりだして、両掌(りょうて)につつみこんだ。
「これ一休、そちはなかなか頓智に秀(すぐ)れていると聞くが、これは当てられるかな」
殿様は両掌を前に出し、一休さんに見えるように少しだけ両掌をひろげた。
「この掌(て)の中にあるのは雀(すずめ)だが、この雀、生きているか、死んでいるか、さあ、当ててみよ」
一休さんがまわりを見まわしたら、広間の両脇にずらーっと並んで坐っているお侍たちは、みなみなニャニャ笑って、答を知っているふうだ。
<おらが負けると思っている顔ばかりだな。ということ・・・、ふーん、そういうことか>
殿様の魂胆(こんたん)がピーンとひらめいた一休さん、にこにこっとした。
「はいっ。当てられないこともないけれど」
といいながら、タタミのヘリを股いで立ちあがり、
「その前におらのを当ててみて下さい。このタタミのヘリから、おらは右へ行くか、左へ行くかわかりますか。殿様が当てたら、雀が生きているか、死んでいるか、おらも当ててみますから」
といった。
あまりに予想外の答で、家来たちはハッとして殿様の顔を見た。殿様、顔をまっ赤にして一休をにらんでいる。
「うーん。まいった。予(よ)の負けじゃ」
といわれた。殿様は、一休さんが、雀が生きていると答れば雀の首をひねって殺し、死んでいるといえば生きたまま出して見せるつもりだったと。
魂胆をさか手にとられて負けた殿様、くやしくてならない。くる日も、くる日もよい智恵はないかと思案していたら、襖(ふすま)の絵が目についた。殿様、難問を思いつかれた。
「うーん。これなら一休をギャフンといわせてやれる」
というて、喜んだ。
また、一休さんが呼ばれた。
「これ一休。そこの襖の虎を縛(しば)ってみよ」
殿様が閉(と)じた扇子(せんす)でさす方を見ると、襖には、ガンク、ガンカイといって、昔は虎を描(か)かせたら世界一といわれたガンクの描いた虎が竹林(ちくりん)から目をランランと光らせて一休さんをにらんでいる。牙をむいて、今にも襲いかかってきそうだ。緊張感がピーンと張りつめて、そのすさまじさは絵と判っていても身のすくむ思いがする。
絵に見とれている一休さんに、殿様、
「どうだ、なんぼ一休でも絵に画いた虎は縛れまい。こうさんするか」
と、とくい顔でいわれた。
そしたら一休さん、にこにこして、
「いえ、描いた虎でも何でも縛る。ですが、おらの縛り方は投げ縄でとらえてから縛るやり方で、虎を追い出すセコがいります。このままでは、竹薮(たけやぶ)がじゃまになって何とも仕様がないから、殿様、虎を追い出して下さい。おら、こっちで待っていますから」
というた。
殿様、これには何ともしようが無くて、また負けてしまったと。
どんびんからりん、すっからりん。
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