2-37『鬼の岩屋(いわや)』
―香川県―
昔、あるところに大けな岩屋(いわや)があって、鬼(おに)が棲(す)んででおったと。
鬼は、手下(てした)に大勢の山賊(さんぞく)どもを使っておったと。山賊どもは盗人だから、夜になると山を下りて町へ出て来る。そしていろんな物を盗んで来て、岩屋で食べたり呑(の)んだりしょったそうな。
あるとき、鬼が手下の山賊に向かって、
「おなごのきれいなのを一人連れて来い」
と、命令したそうな。
手下どもが町へ出て、きれいなおなごを探したら、呉服屋(ごふくや)に若いきれいな嫁がおったそうな。
そこで手下は、銭をたくさん持って町の呉服屋へ行ったと。
そして帯(おび)やら着物やら、たくさん呉(く)れ言うて銭袋(ぜにぶくろ)をジャンガと置いてみせたと。
呉服屋の主人は、上客(じょうきゃく)が来たと思うて、喜んで酒を出してもてなしたと。
手下は主人と一緒に酒を呑んで、主人をしっかり酔(よ)わしてしもうたと。
主人は酔ってグウグウ眠ってしもうたら、手下は、帯とか着物を入れとる箱をあけて、その中へ呉服屋の嫁を押しこめたそうな。そしてその箱をかついで山の岩屋へ連れて行ったと。
鬼はたいそう気に入って、とうとう、鬼の嫁さんにしたそうな。
一方、町の呉服屋では、主人が目をさますと嫁がおらん。あちら、こちらを探しまわったが、どこにも見当らん。
「こりゃ、昨日(きのう)来た奴に盗(と)られたんじゃ。そうにちがいない。こりゃぁ大変だあ」
いうて、何もかもほっといて嫁探しに出掛けたそうな。
一年経ち、二年経ち、三年経ったある日、呉服屋が宿へ泊ったら、その手下がその宿に泊り合わせたそうな。
合い部屋で一緒に酒を呑んでいたら、手下が、
「世の中には面白い事もあるもんじゃ。わしが鬼につかまえられて、手下になって山賊になっとったときのことじゃが、ある町の呉服屋の家内をつかまえて来て、鬼の女房にしたことがあるわ」
と言うたそうな。
それを聞いた呉服屋の主人は、
「こりゃ、わしの嫁のことにちがいない」
と思うて、上手(じょうず)に鬼の岩屋の場所を聞き出したと。
そして山の鬼に岩屋へ行ったそうな。手下が、
「鬼は、夜は外(そと)へ荒しに行くけに、昼は寝よる」
と言うとったのを思い出して、夜になるのを待って岩屋へ忍び込んだと。
そしたら、我が嫁が一人で、しょんぼり座っておったと。
「訪ねて来たぞ」
というたら、嫁は目をまんまるにして、
「よう訪ねて来ておくれた」
いうて、泣いて喜んだそうな。
鬼が戻って来るかも知れんので、
「早う、早う」
いうて、主人を階段の下へ隠したそうな。
やがて夜明け頃になって鬼が戻って来て、
「人くさい、人くさい」
というのだと。女房は、
「そんなら、わたしのお腹(なか)に赤児が宿ったんじゃろ」
いうて、にっこり微笑んでみせたと。鬼は、
「そうか、それはめでたい。いやめでたい」
いうて喜んで喜んで、酒をあびるほど呑んでグワァラ、グワ―ラ寝てしもうたと。
鬼がすっかり眠ったのを見とどけた嫁は階段の下に隠れている主人を呼び寄せたと。
主人は、何でも切れないものはないという鬼の刀を持って来て、鬼の首をスポ―ンと切りはねたと。
主人と若いきれいな嫁は、鬼が貯(た)め込(こ)んだ宝物を持って、無事に家に戻ったと。
そして以前にもまして大きな呉服屋を営(いとな)んで、子宝にも恵まれて末長(すえなが)く幸せに暮らしたそうな。
そうじゃそうな、候(そうら)えばくばく。
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