2-33『観音(かんのん)さま二つ』
―島根県―
むかし、ある山奥に山姥(やまんば)が棲(す)んでおったと。
山のふもとの村人が、山へ入って柴刈りや山菜採(さんさいと)りをしていると、どこからともなく、「ホホヤ―、ホホヤ―」と、さやごの泣く声がするんだと。
「はて、こんなところで赤ン坊の声が」
と不思議に思って、泣き声の方へ近寄って行くと、突然、山姥が出て来て、その人をとって食ってしまう。
さやごの泣き声は、山姥の誘いであったと。
こんなことが度重なって、誰もその山へ入る人はなくなったと。
あるとき、村で一番の力持ちの男が、
「よっし、おらが山姥を退治してくれる」
というて、その山へ入って行ったと。
いくがいくがいくと、「ホホヤ―、ホホヤ―」と、さやごの泣く声が聞えて来たと。
近寄って行くと、泣き声がハタと止(や)んで、一人の姥(うば)が出て来たと。男は、
<ははぁ、こいつだな>
と思うたが、何も知らない顔をして姥に尋ねた。
「婆さん、なんでこげな所にござる」
「わしゃあ、道に迷うて困っちょるわな」
「そら難儀だったな、おらに背負(おぶ)わさっしゃれ、里へ連れて行ってやるけに」
「そんなら、わしが降(お)ろしてくれというたときに降ろさっしゃれ」
「降ろしてくれと言やぁ、いつでも降ろすけに」
「そうか、そうか」
姥は喜んで男に背負われたと。男は姥を帯でかたく背負って、肩腰しにたれた両手をギュッと握って里へ下ったと。
山の出口に差しかかったら、姥が、
「ここでまあ、降ろしてござっしゃえ」
というた。男は、
<ふん、降ろしゃあ、このおらをとって食おうっちゅうこんたんじゃろ。その手に乗るか>
と思うて、
「まだまだ里へは遠いから」
というた。
「なら、わしの手を離(はな)さっしゃれ、痛うてどうにもならん」
「がまんじゃ。そのうち離すけ」
そういいながら、我が家まで背負って来たと。
家の中に入ると、まわりの戸や窓をしっかり閉めて、土間に大火を焚いた。
そして、火がどんどろ、どんどろ燃えているなかに姥を投げ込んだと。姥は、
「あちちちい」
というて、逃がれようとしたと。
「おのれ、いままで人をたくさんとって食うた山姥め、逃がすものか」
というて、家じゅう追いまわしていたら、どこへ散ったやら舞ったやら、見えなくなったと。
「おのれ、あの山姥め、どけえ行ったじゃろか」
というて家じゅう探しまわると、仏壇に観音さまが二つ坐ってござった。
「こりゃおかしなことだ。ここにや観音さまが一つしか無かったに二つある。どれが本当の観音さまやら」
二つの観音さまは大きさも顔も姿も寸分(すんぶん)違ったところがないのだと。
「はて、困った。ひとつは山姥が化けちょるにちがいはないが」
と思案しておったが、ハタと手を叩いて、
「おう、そうじゃ。ここの元からの観音さまは、小豆飯(あずきめし)を供えるといつもにっこり笑うて右の手をささっしゃるけに、小豆飯を供えよう」
というて、にわかに小豆飯をこさえて供えたと。
そしたら、一つの観音さまが、にっこり笑うて手をさしのべたと。
「こいつが山姥だ」
いうて、その手をつかまえて仏壇から引きずり落としたと。
観音さまは「痛てえ」というて、元の山姥の姿になったと。
「おのれ山姥、お前えにかみ殺された人たちの仇討(あだう)ちだ」
いうて、なぐるけるしたと。
山姥は、とうとう死んでしもうたと。
それからは山姥の災(わざわい)もなくなって、誰もが安心して山へ行けるようになったと。
むかし こっぽり。
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