2-39『浜千鳥(はまちどり)女房』
―沖縄県―
昔、沖縄県のある海辺りに若い夫婦が住んでいたそうな。
女房は、毎日漁船(ぎょせん)から魚(さかな)を受け取って、それを市場に行って売る、夫は、家の仕事をあれこれやっておったと。
ん? 何に何に、女房と夫の仕事が逆(ぎゃく)ってか? いやいや、沖縄の女子(おなご)はよう働くのが多いんじゃ。この女房もきっとそうじゃったのだろうて。得心(とくしん)したか? よしよし。
さて、あるときのこと。市場に行った女房の帰りが、いつになく遅いのだと。心配になった夫が捜(さが)しに行ったと。
「魚が大漁で、市場での売りさばきで遅いのかなあ」
とて市場に行ってみたがいない。
「魚が少ないので遅くまで浜にいるのかなあ」
とて浜辺へ行ってみてもいない。
誰れ彼れなくつかまえては、
「女房見なかったか」
とて尋(たず)ねてみるのだが、誰れも女房を見た者はなかったと。
とぼら、とぼら歩いていたら、小っさい鳥が、干してある網にからまってもがいておった。夫は、その鳥を網からはずして逃がしてやったと。
家に戻って寝ないで待っていたが、とうとう女房は帰って来なかったと。
そうして、何日も何日も経ったと。
ある日、夫が縁側に腰かけてぼんやり外をながめていたら、見たことのない綺麗(きれい)な女が屋敷内の井戸の前に来て洗濯(せんたく)を始めたと。
「どこの女だろう」
とて思うたが、とがめもせずにそのままにさせておいたと。
そしたらその女は、ときどき来て洗濯するようになったと。
ある日、夫が外仕事から帰って来たら、家の台所でその女がご飯の支度をしていたと。
「あの、ここは俺ら家(え)の台所ですが、あなたはどこの方でございますか。どうして俺ら家の台所で働いていらっしゃるのか」
とて聞くと、女は、
「私は、あなたへのご恩返しに食事の支度をしておりました」
「ああ、そうか」
夫は、井戸を使わせてやったお礼かな、とて思うたと。
晩ご飯が済んで茶飲(ちゃの)み話をしたと。夫が、
「まだ、あなたの名前を教えてもらっていませんが」
とて言うと、女は、
「私は、千鳥(ちどり)といいます。だけど、この千鳥という名前は誰にも教えないで下さい。」
とて言うたと。
千鳥という女は、毎日やって来ては、食事、洗濯、掃除と家の仕事をこまごま、まめまめやってくれる。夫はありがたがったと。
ある時、夫の友達が家へ用事で訪ねて来た。すると、女房が行方知れずで一人者だったはずなのに、綺麗な女がいる。
「ありゃ、こりゃどういうことだ」
とて、夫に尋ねた。
「いや、なに、この女(ひと)がいろいろ世話をして下さるので、助かっているところだ」
「こんな綺麗な女がいるとは、お前(め)えもすみに置けないな。名前は何という。紹介しろよ」
「いや、なに、千鳥という名前だ」
夫は、つい言うてしまったと。
それを聞いた千鳥という女は、悲しい顔をしてうつむいたまま、夫の友達が何を話しかけても物を言わんかったと。
友達は、けげんな顔して帰った。すると、千鳥という女は、
「私の名前が千鳥だとあなた以外の人に知られたからには、もうここにいることは出来ません。あれだけ注意して下さいとお願いしていましたのに、残念でなりません。実は私は、浜で網にからまっているところを助けていただいた浜千鳥です」
というと、見る見る浜千鳥になって、ピ―ッと鳴いて飛んで行ったと。
おしまい。
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