2-41『仁王様(におうさま)の稲一荷(いねいっか)』
―新潟県―
昔、あったてんがの、
あるところに大層強欲(たいそうごうよく)な庄屋(しょうや)があったと。
若い衆(しゅう)をさんざんにこき使って、年取(としと)り前(まえ)になるとろくな給金(きゅうきん)もくれないで、ポイと解雇(やめ)させてしまうのだと。
あるとき、この庄屋に力の強そうな若者が来たと。
「ここの家で、おらを使うとくれ」
「そうか、仕事のしそうな身体(からだ)つきだが、給金はどれほど欲しい」
「おら、銭(ぜに)なんぞいらん。とり秋(あき)になったら、稲(いね)を一荷(いっか)だけ、貰(もら)えればいい」
「ほう、そうかそうか。たった一荷でいいか。それだば今日からでもわしんとこの若い衆になれ」
「へえ、今日は何の仕事をしようかい」
「そうじゃな、田打(たう)ちでもしてもらおうか」
若者は早速田打ちを始めたと。
それが、三本鍬(さんぽんくわ)を両手に一本づつ持って、ぼっか、ぼっかと打って行く、人の何倍も働いて、仕事がどんどんはかがいくので、庄屋はたまげるやら喜ぶやら。
肥料(こやし)まきの時には、ため桶(おけ)をヒョイと持って田んぼの真ん中におき、
「さあ、なんぼでもこやしをやってくれ」
という。
この若者は、何せ、力はあるし、骨おしみもせず働くしで、やがて田植もはやばやとすんだと。
庄屋は、
「あの男が来たんで、今年の仕事のはかのいき具合はどういや、いやたまらん。これで稲一荷でいいとは、ウヒャヒャヒャ」
と、大満足だと。
ある雨降りの日、その若者が、
「お庄屋様、今日は雨降りで外仕事もならんので、おらが秋になって貰う稲一荷の荷縄(になわ)をなわして貰(もら)いたいが」
というた。庄屋は、どうせ稲一荷の縄ぐらいたいしたこともあるまいと思うて、
「ああ、なんぼでもそうせい」
というた。
そしたら、若者は一日がかりで、長くて太っとい縄を二本作ったと。
やがて獲(と)り秋になったと。
稲刈りもすんで、ハサバに干(ほ)した稲をとり込むことになった。
若者は、長くて太っとい荷縄を二本、下に延(の)べて、
「さあ、この上に稲を積もう」
というて、どんどん運び積んだと。
庄屋は、
「こんなに積んだら、だれも屋敷の庭の荷場所まで運べまいが」
というたけど、若者は、いさいかまわず、どんどん荷縄の上に積んだと。
とうとう、今年の一作の稲をみんな積んでしまったと。
そして、庄屋の見ている前で、この稲をヒョイと背負うと、苦もなく歩きはじめた。そして、
「はあて、お庄屋様、そいじゃ、約束の稲一荷もろうて行くで」
というた。
「ここ、こら、待ってくれ、それをみんな持って行かれると、家に何も残らん。それでは食うて行かれん。待ってくれ」
「何といわれても、約束は約束だで。」
庄屋は、おろおろして、
「待ってくれ、待ってくれえ」
と泣き事いうて後を追いかけたけど、若者の足があんまり早くて、ついて行けないのだと。とうとう姿を見失ってしもうたと。
次の日、山のお寺の仁王様の前に、その稲一荷が、どでんと置いてあるのが見つかったと。
村の衆は、これはきっと、仁王様が若者の姿になって、欲ばり庄屋を懲(こ)らしめるためにやったことだと、うわさしあったそうな。
いきがポ―ンとさけた。
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