2-42『出雲神(いずもがみ)の縁結(えんむす)び』
―兵庫県―
出雲(いずも)の神(かみ)さん言うたら、昔から縁結(えんむす)びの神さんじゃわな。朝から晩まで、何百組か何千組の縁結びをしていなさる。
それが毎日のことじゃて、初めの間(あいだ)ぁ、
「あそこの息子とここの娘。あの息子とこの娘」
と、選び選び言うていなさるが、昼頃になると、
「あれとこれと、あれとこれと」
と言うようになり、晩方になると、
「あれ、これ。あれ、これ」
「あれこれ、あれこれあれこれ」
になってしまわれる。
この、「あれこれ」になったら間違いが起きて、そんな縁組が不幸になるんじゃそうな。
ところで、縁結びの神さんにも娘のお子があって、その娘が三十歳にもなるのに、どこからも貰(もら)いに来ん。それで娘が腹ぁ立てたそうじゃ。
「お父さん。他人の事よりも実の娘の方が大事じゃろう。早ぅ私の相手ぇ決めておくれぇ」
「う、う―ん。実はもうとうに決まっとるのじゃが・・・、けど、あんまり不似合(ふにない)いな話で、つい言いそびれとるんじゃ」
「お父さんが不似合いじゃ思うても、行くのは私じゃで、どこの誰か言うておくれ」
「ほんなら言うが、実は遠い他国(たこく)の山奥で炭焼(すみや)きしとる、ど貧乏の男じゃ」
「私は、遠くてもど貧乏でもええ。今からその人のところへ行く」
言うて、娘は旅ごしらえして、聟(むこ)さんのおる山奥を探しに出かけたんじゃと。
山を越え谷を渡り、何日も旅をして、とうとう聟になる炭焼きの男に出合うたと。
「私はあなたの嫁に決まっとる者(もん)ですで、今日からここに置いてもらいます」
「そんな事ぁ俺は知らん。第一、俺は貧乏で嫁を貰うどころではない。それに、お前さんみたいなきれいな人は、俺の嫁にゃぁ似合わん」
「いいえ、あなたが何と言うても神さんが決めた事じゃで、ここに置いて貰います」
「俺ぁ困る」
言うて、いさかいしとったが、とうとう男が根負けして、二人は夫婦(みょうと)になって暮らしたと。
ところが、何日かしたら米櫃の米が無(の)うなって、その嫁さんが、
「米が無うなりましたが、どうしましょう」
というと、男は困った顔した。
「米は炭と取り替えておるんじゃが、今ぁ焼いた炭をきらしたところだ。次ぃ焼きあがるまで、まだ間がある」
「ほんなら、これを持って行って買(こ)うて来ておくれ」
言うと、嫁さんが懐(ふところ)から金(きん)の小粒(こつぶ)を出した。
「こんなもんで、米と換えてくれるんか」
何せ銭(ぜに)を持ったことのない男じゃて、不思議でならん。けど、町から来た嫁の言う事じゃ、間違いなかろう、思うて、山を下りて行ったんじゃと。
町へ出る途次(とちゅう)の丸木橋(まるきばし)を渡っているとき、男は金の小粒を一粒落とした。下の川をのぞくと、雑魚(ざこ)が寄って来て小粒をこ突(つ)いとる。
「こりゃ面白ぇ」
言うて、次の小粒も落とし、また落とてし、嫁さんから渡された小粒を、みな落としてしまった。
男が手ぶらで家に戻ったら、嫁さんが、
「あら、米はどうしました」
と聞いた。
「うん、実はお前のくれたものは、こうこうで、みんな橋の下へ落としてやった」
「まあ、なんちゅう人じゃろな。あれがありゃ何でも買えるのに」
嫁さんが呆れていると、男は、
「あんな物なら、炭焼き窯(がま)の横になんぼでもあるで、あした取って来る」
と言うたそうじゃ。
あくる日、嫁さんが連(つ)いて行ってみると、何と、炭焼き窯の横は金の山で、そこいら一面に金の塊りがゴロゴロしとる。
嫁さんはびっくりして、
「こんなにようけありゃぁ、あんたも炭焼きすることぁない。楽ぅしておくれ」
言うて、幸せに暮らしたそうじゃよ。
出雲の神さんが「あれこれあれこれ」と決めた縁でも、工合いよういく夫婦もあるんじゃそうな。
いっちこたあちこ。
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