3-23『食わず女房(にょうぼう)』
―群馬県―
むかし、むかし、あったとさ。
あるところに吝(けち)な男がいてあった。いつも
「飯(まま)食わねで、仕事をうんとする嬶(かかあ)欲しい」
というていた。
あるとき、一人の女が男の家に訪ねてきた。
「おれ、飯食わねで仕事ばかりだ。嬶にしてくりょ」
という。男は喜んで嬶にしたと。
嬶はよく働いた。飯も食うてる風(ふう)でもない。
「ほんとにええ嬶じゃ」
といよいよ嬉しくなって仕事にせい出していたと。
が、七日も過ぎ、十日目も来ようかという頃になって、米俵が少なくなっているのに気がついた。男は嬶に、
「おめ、米俵、どこかへやったか」
と聞いたら、
「おら、知んない」
という。味噌樽(みそだる)を調べたら、それと分かるほど減っている。あんまり変だから、次の朝、仕事に行くふりをして、梁(はり)に上って、隠れて嬶の様子を見ていたと。
そしたら嬶は、倉から米一俵かついできて、馬(ま)ぐさ煮る釜で一度にみな炊いた。大っきな鍋に味噌をドサッと入れて味噌汁こしらえた。
戸板(といた)をはずして釜のそばへ置き、塩一升用意すると、米一俵分の握り飯こしらえて戸板に山のように積んでいった。
そんなに握ってどうするのかと、見ていたら、嬶は頭の髪の毛ほぐしはじめた。
そしたらなんと、頭のてっぺんがザックリ割れて、大っきな口があいた。
嬶はその口へ、握り飯をポイポイ、ポイポイ投げ込んでは、大鍋の味噌汁をひしゃくですくって、ザァザァそそいでいく。握り飯も味噌汁も、あっという間に、頭の口に、みなにみこまれてしまったと。
男は、おっかなくなって、こんな化物、一日とて家に置かれないと、晩方、仕事から帰ったような顔して、
「今帰った」
というた。嬶も、嬶の顔して
「あや、おかえりなさい」
というた。男は、いよいよ、えらいもんを女房にしたと思うた。男が、
「嬶、嬶、今日おれァ山さ行ったれば、山の神さまいてあってな、『お前(め)の嬶ええ嬶だども、家さ置いとくと障(さわり)あるから、今のうちに出せ』と云われた。こういう御託宣(ごたくせん)だから、お前悪いけど出て行って呉(け)れ」
というたら、嬶は、
「出て行けって云うんじゃ出て行きもするが、土産に風呂桶(ふろおけ)と縄(なわ)ァ一巻(ひとまき)もらいたい」
というた。
男が仕度をしてやると、嬶は、
「この桶ァ乾(かわ)いて底が抜けちゃいけないから、お前、ちょっくら入って見てくりょ」
という。男が入ると、今度は、しゃがんでみてくりょという。男がしゃがんでみせると、嬶は、風呂桶に縄をかけて、男が入ったまんま担ぎあげて、山さ、ぐえらぐえら駈(か)けあがっていった。嬶は鬼婆(おにばば)であったと。
男が、怖いじゃぁ、怖いじゃぁ、思うて身をすくめていたら、鬼婆はひと休みした。
そしたら、ちょうど上から木の枝がぶらさがっていたので、それにつかまって、そおっと逃げたと。
やがて、鬼婆、風呂桶担いで、また、登っていった。
「休んだら軽いなぁ、休んだら軽いなぁ」
と唄いながら登っていって、やがて山のてっぺんさついて、
「みんな来ォやぁい、いい肴(さかな)持って来たァ」
と呼ばった。仲間が、ワサワサ集まってきた。
鬼どもが風呂桶をのぞいたら、何もない。
「やあ、そんじゃ、途ちゅうで逃げられたか」
というて、鬼婆、あわてて元の道を捜しに戻った。男はじきに見つかったと。
あわやつかまる、というとき、男は蓬(よもぎ)のいっぱい生(は)えている中に跳(と)び込んだ。
そしたら鬼婆、その草に触(さ)わると身がとける、ゆうて、蓬の中に入って来(こ)ない。
鬼婆が帰って行ったので、男は走って山を下りた。そしたら、また追っかけてきた。
あわやつかまる、というとき男が跳び込んだのが菖蒲(しょうぶ)がいっぱい生えている中(なか)だった。
そしたら鬼婆は刀がこわい、刀がこわい、というて、菖蒲の中に入ってこない。
菖蒲の葉が刀に見えるらしいのだと。
鬼婆、とうとうあきらめて、山へ帰って行った。男は無事に助かって家へ帰れたと。
ちょうどその日が五月五日だったので、五月節句には魔除(まよ)けに屋根へ蓬や菖蒲をさすようになったそうな。
いちがさかえた。
[필수입력] 닉네임
[필수입력] 인증코드 왼쪽 박스안에 표시된 수자를 정확히 입력하세요.