3-42『五寸釘(ごすんくぎ)』
―熊本県―
この話は女子(おなご)と子供には聞かせたくないのじゃが、ことのなりゆきで・・・ま、たまにゃ、いいかの。
昔、あるところに一人息子がおった。十八、九になったが、口数は少のうて、温和(おとな)しいかぎり。父さんも母さんも、
「一人息子で可愛がり過ぎたのかねぇ。嫁御(よめご)貰(もら)う気もおこらんようだし。困ったもんね」
「うーん。ずうたいばかり大きくてもまんだ子供なのかなぁ」
といいあっていたと。
ある朝、父さんが便所に行ったら、横の柱の、ちょうど腰ぐらいのところに五寸釘が一本打ち込んであったと。父さん、母さんに、
「あの釘はなんだ」
と聞いたら、
「あら、父さんが打ち込んだものとばかり思うとった。違うんですか」
「わしゃ知らん。すんなら息子が打ち込んだんだな。」
「でも、何の為に打ったんでしょう」
「つかまる為でもなさそうだ」
父さん母さん、何に使うかその場で見届けてやろうと思うて待っていたが、息子は親のいるときは便所へ行こうとせん。
それで息子に聞いてみたと。
「息子や、便所の柱のな、五寸釘打ったのは、お前だろ。あの釘な、なんに使うか、母さんには教えとらんが、父さん、気がついている。なんちゅうだらしないことか。元気盛(ざか)りのお前が、五寸釘に品物を乗せて小便するなんて、あまりにもなさけないぞ。父さんが若い頃は、そんな不調法(ぶちょうほう)はせんじゃったぞ」
そしたら、息子は頭をかいて、
「いや、その、違うんだ、父さん。その逆だ。俺のは、その・・・品物が毎朝あんまり勢いよう上を向いて、天上に小便かかるから、そのう、自分の手じゃ押し下げきれん。それであの釘の下に差し込み、押さえにしとる」
というた。そしたら父さん、
「う、うーん、そうありたいもんじゃ」
と、こういうたと。
そりばっかりのばくりゅうどん。
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